海外旅行の準備・最新情報

旅行業界は元に戻らない? コロナ後の海外旅行、「変わったこと」と「変わらないこと」

長かったコロナ禍に終わりが見えてきて、世界の人々は以前と変わらない海外旅行を楽しみ始めたかのようです。日本へのインバウンドも確実に増えてきました。しかし、コロナが世界で観光業界に与えたダメージは凄まじく、「元に戻った」というのは性急です。

中原 健一郎

執筆者:中原 健一郎

海外旅行ガイド

長かったコロナ禍の終わりがようやく見えてきたようで、巷で海外旅行へ行くという話もちらほら聞かれるようになってきました。2020年春、ヨーロッパの中ですら国境にはバリケードが立ち、飛行機は止まり、往来は途絶えました。あれから3年半、世界はウイルスをいかに根絶するかを諦め、どう共存するかに舵を切り、少しずつ前に進み始めています。
コロナで甚大な被害を受けた観光業界。ようやく前へ進みはじめた

コロナで甚大な被害を受けた観光業界。ようやく前へ進みはじめた


観光業界は今回のコロナ禍で最大の打撃を受けた業界と言ってよいでしょう。飲食業等とは違って、特にインバウンドの現場などは文字通りの「仕事ゼロ」が長い間続き、世界で多くの人材がこの業界を去りました。この後の内容にも続きますが、今後この業界が完全にコロナ前の状態に戻ることはありません。執筆時点での話になりますが、海外旅行全般においてコロナ前と変わったこと、逆に変わっていないことについて、いくつか考察してみたいと思います。
<目次>

変わったこと、その1:国際線航空券のお値段

これは、そろそろまた海外に行きたいなあと思っている方なら多くが気付いているはずです。目的地にもよりますが、ざっと世界を俯瞰して感覚的には概ねコロナ前の“倍”になったという印象を持ちます。ツアーで旅行する方も、ツアー代金の大部分は航空券ですから、ほぼ同じような状況でしょう。

一例ですが、コロナ前は1月から2月のローシーズンに東京発ヨーロッパ主要都市行きのエコノミー往復(諸税込み)は、最安値は航空会社や出発日によって6万円台(中には5万円台もちらほら)で、南回りの経由便が7~9万円程度、直行便が10万円台前半(15万円以下)というのが概ね相場でした。
 
現在(執筆時点)において、主要な検索サイトで同様の航空券を探してみると、かつての直行便の値段が最安値(もちろん経由便)といったところです。
 
国際航空券価格が高止まりしている理由はいくつかあるはずですが、航空券価格というのは電気代の総括原価方式のようなもの(簡単に言えば、かかったコストに利潤を上乗せして金額を設定するやり方)ではなく、主に市場の需給バランスによって決まります(飛行距離が長い経由便よりも短い直行便の方が高いのはそのため)から、「この値段でも乗る人がいる」というのが根本的な原因になるでしょう。その理由はもちろん、コロナ禍で3年以上どこにも行けず、ウズウズしている人たちが世界中に大勢いるからです。
ある晴れた日のサントリーニ島(ギリシャ)。3年間の巣ごもりから解放されるときはもうすぐそこに

ある晴れた日のサントリーニ島(ギリシャ)。3年間の巣ごもりから解放されるときはもうすぐそこに


需給のうちの「給」もまだ回復していません。2023年の成田空港国際線発着数(旅客便、9月までの一日平均)は329便で、にぎわいが戻ったように見えても2019年の498便(通年平均)には遠く及んでいません。ちなみに2020年は170便、2021年は130便、2022年が191便となっています(数値はいずれも成田国際空港HPの掲載データによる)。
 
需給バランスについていえば、中国の影響も大きいです。日本発路線に限らず、国際線航空券市場で大きなインパクトを持っているのが中国の航空会社であり、中国国際航空(CA)、中国南方航空(CZ)、中国東方航空(MU)の大手を中心として、多様な路線網と豊富な便数で北京、上海や広州乗り換えで目的地に向かう航空券はおトクな航空券の定番でした。
中国最大の航空会社、中国南方航空の飛行機。福岡空港で撮影

中国最大の航空会社、中国南方航空の飛行機。福岡空港で撮影


中国政府が日本やアメリカ、韓国など世界78か国・地域への団体旅行を解禁したのが今年(2023年)8月10日。まだまだ中国人観光客の客足が本格回復していないために、これら中国系航空会社のチケットも以前に比べれば少なく、かつてはこれらとの競争上、他社も価格設定を下げざるを得ない部分があったのは確かですが、現在はその要因が大幅に少なくなっていると言えるでしょう。
 
一方で航空会社にとっての運航コストが上昇しているのも間違いありません。原油価格の高騰を筆頭に、コロナ禍で削減してしまった人員確保のコスト、後述しますがウクライナ危機によるルート変更などは、航空会社の経費にそのまま上積みされ、その相当部分は、運賃に反映されることになるはずです。

また円安が航空券価格に一定の影響をもたらしていることも確かだと思いますが、実は航空券価格は為替変動の影響をダイレクトには受けにくく(受けてもチケット価格に反映されにくい)、1ドル70円台から90円台で円高と言われていた頃、日本の航空会社は円高の恩恵分は安く燃料を調達できたはずですが沖縄行きの航空券がその分安くなったわけではありませんし、アメリカの航空会社は日米間の航空券を日本で円建てで販売する場合、円高になれば円建て価格を下げられるのが道理ですが、そうはならなかったのも皆様がご記憶の通りです。
国際線航空チケットの価格変動は、為替の動きだけでは説明はつきません

国際線航空チケットの価格変動は、為替の動きだけでは説明はつきません


この高止まり傾向はどのくらい続くのでしょうか? あと1~2年は続くけど、その後は次第にある程度元の近くへと収斂(しゅうれん)していくのではないかと私は考えています。

その理由の一つは、各国の国内線(ヨーロッパは欧州内路線)は、コロナ前とそれほど変わらない価格で落ち着いているからです。どの国でもパンデミック後の旅行需要はまず国内から回復するのは当然ですし、国際線価格もその辺りが一巡し、供給量も回復すれば、もとの方向に動きだすと考えて無理はないはずです。
 
いずれにしても現在の国際線チケット価格は不安定な状態です。大手の直行便が、おやっ?と思う価格で出されていてLCCとほとんど変わらなかったり、その逆でとても高額だったり、同じ航空会社で同じエリアでも行先によって価格に大きな差があったりすることが、タイミングによって起きています。
 
あと1~2年は、国際線航空券価格とはかくも摩訶不思議なものであることを受け入れ、知識と情報を総動員してお得なチケットを見つけられる人がお得に海外旅行ができる、そんな時期が続くのではないでしょうか。
 

変わったこと、その2:物価

コロナ禍を経て、昨今世界で急激に物価が上昇しているのは周知の通りです。コロナによる供給不足、ロシアによるウクライナ侵攻、原油価格の高騰などによってもたらされた世界的なインフレは、アメリカやイギリスでは指標にもよりますが2022年は概ね8~9%ほどの物価上昇率となりました。日本は約3%ほどとまだマシな方というのはその通りですが、これに円安が加わって特に欧米諸国の物価は日本国内と比べると驚くほど高く感じられるようになっています。

わずか10年ほど前まで、アメリカへ行くと物価が安くて帰国時は服やら靴やら両腕に抱えて帰ってきたものですが、今やこれをやっているのは日本に来たアメリカ人観光客です。この短期間の間に完全に逆転してしまいました。
 
ただ2023年に入ってからはアメリカもヨーロッパも物価上昇率が下がりだしていることは確かな傾向で、現在アメリカでは日本並みの物価上昇率に落ち着いてきています。
 
当面は欧米の物価が日本人にとってかなり高い状況が続くことは避けられませんが、中期的に見てそこまで悲観的になることもないのではとも思っています。円安が反転する可能性ももちろんあるでしょうし、要は日本もこれまで実施してこなかった賃上げに向けて国全体が気持ちを切り替えればいいわけで(言うは易しですが……)、円安でトヨタ自動車が過去最高益をはじき出している今がまさにそのチャンスのはずです。
何十年も上昇しなかった日本人の所得。インフレの今が変わるチャンス

何十年も上昇しなかった日本人の所得。インフレの今が変わるチャンス

 

変わったこと、その3:飛行ルート、飛行時間

コロナ危機に続くウクライナ危機によっても、世界情勢は大きな変革を迫られています。以前日本からヨーロッパ方面への直行便はシベリアを通る最短ルートで向かっていましたが、ロシア上空が通過できなくなったことにより、行きはまず東へ向かってアラスカ上空から北極圏を越えて欧州へ向かうルートが主流です。まるで米ソ冷戦時代のアラスカ経由北回りルートを彷彿とさせます。
 
2023年11月14日のJAL41便、羽田発ロンドン行きの航路。シベリアを迂回して北極圏上空からヨーロッパへ向かう北回りのルート(画像は「Flightradar24」≪https://www.flightradar24.com≫より)

2023年11月14日のJAL41便、羽田発ロンドン行きの航路。シベリアを迂回して北極圏上空からヨーロッパへ向かう北回りのルート(画像は「Flightradar24」≪https://www.flightradar24.com≫より)


一方帰りは南回りで、黒海、コーカサス、カスピ海、カザフスタン、中国新疆のシルクロードの辺りを通って帰ってきます。まるでマルコ・ポーロか三蔵法師のような気分になれそうなルートです。
 
2023年11月14日のJAL44便、ロンドン発羽田行きの航路。中央アジア上空の複数の国を経由して東へ向かう南回りのルート(画像は「Flightradar24」≪https://www.flightradar24.com≫より)

2023年11月14日のJAL44便、ロンドン発羽田行きの航路。中央アジア上空の複数の国を経由して東へ向かう南回りのルート(画像は「Flightradar24」≪https://www.flightradar24.com≫より)


その窓景色を楽しめる人は良いかもしれませんが、いずれにしても従前より2~3時間余分に飛行時間が必要となっており、ヨーロッパ方面は長時間フライトが苦手な方には非常につらい状況です。またその分の余計なコストは、当然ながら航空会社の経費、ひいては我々の運賃にものしかかってきます。
グリーンランド上空

グリーンランド上空にて(撮影はコロナ以前)。北極圏の美しいモノトーンの景色

 

変わったこと、その4:旅行会社

コロナ前、街角には大小の旅行代理店が林立し、それぞれが工夫を凝らした独自のツアーを販売していました。店頭に並ぶパンフレットは見ているだけで面白く、小さな代理店でも問い合わせてみれば驚くほどお得な格安航空券を紹介してくれたりしました。

そんな気概ある中小の旅行代理店はまるで世界からほとんどなくなってしまったかのようです。
コロナ後、顧客の相談にきめ細かく対応していた中小代理店は増々存続が難しくなってきた

コロナ後、顧客の相談にきめ細かく対応していた中小代理店は増々存続が難しくなってきた


昨今の国際線航空券は、生き残った代理店を通しても各航空会社のHPで予約してもあまり値段的には変わらなくなってきています。
 
以前から航空会社は、旅行代理店に対する航空券の販売手数料を一方的に下げるなどの措置で座席販売の主導権を確保する方向に動いていました。コロナ後の世界は、図らずも航空会社が目指していた世界かもしれません。
 
航空会社の担当者と交渉して座席を仕入れ、ツアーを組んで人の手で付加価値を付けて、理不尽な燃油サーチャージに対するクレームに矢面で対応しながら座席をさばいてくれる、そんな以前の旅行代理店たちはもう要らないと言われてしまっているかのようです。
 
でも、それで本当に航空会社はハッピーなのでしょうか?
 
世界中でオンライン会議に置き換わったビジネス需要は永遠に戻りません。現在は、航空会社がコロナ後の観光のリベンジ需要を少しでも高値で取り込もうと強気に出ている状況と見受けられますが、航空会社は自ら座席を販売できても、旅行者にプッシュして売り込むことはできません。
 
これが、旅行代理店との極めて大きな違いであり、弱み(旅行代理店の強み)でもあります。
コロナでオンライン会議に切り替わってしまったビジネス航空需要は永遠に戻らない

コロナでオンライン会議に切り替わってしまったビジネス航空需要は永遠に戻らない


宿泊業、旅客運送業(バス、鉄道、航空など)、旅行代理業は運命共同体で、三位一体の関係性を築いています。このうちどれか一つでも他を出し抜こうとしたら、おそらくそれは上手くいかないでしょう。なぜなら個々の宿泊施設の集客能力は極めて限られており、また宿泊とその手配なくして旅客移動は成り立たず、さらに物理的な乗り物や宿泊施設なくして代理業務は形成し得ないからです。
 
コロナ禍でどこも大ダメージを受けたこの運命共同体ですから、これからも手を取り合って業界の発展に力を尽くしてもらいたいと願っています。
 

変わらなかったこと、その1:出入国手続

世界がコロナ撲滅を諦め始めた2021年頃、先進国を中心にワクチンパスなどが普及し、それがなければ飲食店等には入店もできなかった時期が長く続いた国もありました(日本はこういうものを導入せず、よく頑張ったと思います)。中国では厳格なゼロコロナ政策が実施され、1粒のウイルスであっても侵入を許さないというくらいの徹底したものでした。
 
各国の水際政策では陰性証明、ワクチン接種証明書、入国時のPCR検査や数週間に渡るホテル隔離、空港から市内への公共交通利用禁止、アプリによる移動追跡など、ワクチンパス等をはじめとするこういった包括的なプロセスが、強弱は変われど、恒久的に今後の出入国手続の一部になる可能性が低くないと私は思っていました。しかし結果的にはどれもこれも緩和されたり廃止されたりして、どこか昔の出来事に感じられるようになってきたのは本当にうれしい限りです。
これからの海外渡航はワクチンパスが必須……なんてことにはならなかった

これからの海外渡航はワクチンパスが必須……なんてことにはならなかった


言い方は難しいのですが、最後まで保守的だった日本も含めて広範な国と地域での制限解除の結果、世界の出入国手続は本質的には変わらなかったと考えています。ただし、もちろん国によっては各種の制限・手続きが継続、変更されている場合もありますので、渡航先に応じた準備が引き続き必要です。
 

変わらなかったもの、その2:治安

これも私が心配していたものの一つです。社会の混乱により秩序が乱れれば、必ず治安が悪化します。新型コロナ感染症の流行が始まった2020年初期には、世界でマスクの買い占め、トイレットペーパーの奪い合いのようなエゴ剥き出しの世相に直面することになりました。また新型コロナ感染症が発生したのが中国の武漢だったことから、アジア人に対する差別的な対応、ひいては暴力行為までもが懸念され、相当数が現実に起こりました。
コロナによる人心の乱れで、治安の悪化は世界中で現実的な問題となった

コロナによる人心の乱れで、治安の悪化は世界中で現実的な問題となった


また、例えばドイツでフランス人に対してコロナ呼ばわりして(コロナ初期の頃、ドイツとフランスではコロナ対策の成否に差が出始めていました)暴力を振るうなどという事件も確かにあり、世界中がささくれだっていたことは間違いありません。
 
コロナの行く末次第では、全世界的な治安の悪化というのは非現実的な未来とは言えなかったのではないでしょうか。ですが、これも言い方は難しいのですが、心配していたようなことには概ねならなかったというのが今のところの私の評価です。
 
大仰なことを言うようですが、やはり人類は、この百年くらいで相当賢明になったのだと思います。そういう世界で飛行機に乗って旅行をできる時代ということが、恵みという他はないように思えます。
 

変わらなかったもの、その3:世界のおもてなしの心

コロナが人間の良心まで変えてしまうことはありませんでした。不幸にして新たに戦争が始まってしまった地域もありますが、世界の多くの国々ではさらに多様な人々の往来を希求して観光業がこれまで以上に大切な産業として認知されていますし、国境を越えての交流はこれからもより深まっていくでしょう。
 
遠方からの来客をもてなしたいと思う心はおそらく人類の普遍的な感情

遠方からの来客をもてなしたいと思う心は日本人だけではなく、おそらく人類の普遍的な感情


ただ、心は変わらずとも働く人の数は減ってしまいました。日本では観光関連サービス業の産み出す付加価値が他業種と比べて従前から非常に低く(要は給料が安いということで、日本のサービス業のレベルが低いということでは決してありません)、今は空室があっても人手不足で部屋を販売できない温泉旅館やホテルがたくさんあります。

コロナ禍を経てもこの業界に残った人たちは好きでやっている方たちばかりですから、この人たちの生産性を向上させる(直言すれば、もっとお給料を払える)取り組みを継続し、世界の中の日本の存在感をさらに高めていってほしいと思います。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※海外を訪れる際には最新情報の入手に努め、「外務省 海外安全ホームページ」を確認するなど、安全確保に十分注意を払ってください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます