人間関係

「パパだけを愛してきた」母と「母さんの愛が重い」と嘆く父。子育てを終えた女性の孤独と束縛(2ページ目)

昔から「子どもより夫」というタイプだった母親。父親が定年後に通い始めたギター教室で女性と仲良くなったことを「浮気だ」といって家出をしてしまう。子育てが終わった寂しさからか、父への依存と束縛が激しくなるばかり。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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自立できない母にイラッ

父と話してみて、チサトさんは「母が父を愛しているのは間違いではないのだろうが、それは対等な関係として愛しているのではなく、依存しているだけではないか」と考えるようになった。

「そのときは結局、父が迎えに来て母を連れて帰りましたが、その後も母の束縛は続いていたみたい。父が友人と会うのを嫌がり、自分だけを見てほしいとすがったり。一時期は認知症を疑ったんですよ、私。でもそうではなかった。母は子どもたちが独立して、自分が何のために生きているのかわからなくなっていたようです」

ふたりの娘も夫も、それぞれ自分自身のために生きている。だが私には何もない、時間はあるけれど何をしたらいいかわからない。夫と子どもに尽くしてきた母が60代半ばにして陥った悲しい現実だった。

「父は母をカウンセリングに連れていって、そういうことが判明しました。父と私で、母に『何かやってみたいことはないの?』『行きたいところはないの?』と細かく聞いてみたけど、母は『また家族で暮らしたい』などという。家庭をもって子どもがいれば、状況はどんどん変わっていくのに母はそれを受け入れることができなかった。いいかげん精神的に自立したらどうなのと私は最後には怒ってしまいました」

「天然記念物みたいな人だ」と思う

そのまま帰京してしまったチサトさんだが、父からの報告によれば、最近、母は近所にできたヨガ教室に通い始め、少し好転し始めているという。

「相変わらず、父への締め付けは厳しいみたいですが、父は父で仕事にかこつけて適当に息抜きしている。母は純粋なのかもしれませんね。父しか知らずに一生を過ごしてきて、あの年齢で誰にも頼られなくなって自分の存在価値が見いだせなくなった。開き直って、残りの人生を楽しめばいいのに、それもできない。今の時代、天然記念物みたいな人だと姉とも電話で話して笑ったんですが」

姉は、そんな母を少しだけ羨ましく思うと言ったが、チサトさんは「私はごめんだと思いました」と笑う。夫婦といっても他人、その他人に自分の人生を預けるようなことはしたくないし、あの年齢になって自身の存在意義を疑うのはつらすぎる。もっと早くから自分は自分だと思って生きていくべきだと言った。

「だから結婚できないのよと姉には言われましたが、自分の人生を投げ打ってまで結婚する意味がわからない」

結婚イコール犠牲とは限らないのはわかっているが、私は誰よりも自分自身のために生きていきたいと今は思っている。チサトさんは力強くそう言った。
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