「洋式化」は急速に進んでいるものの、和式便器など改修待ちのトイレは多数残っており、不快なにおいを放つ。半面、家庭や駅、商業施設のトイレはどんどん清潔になり、さまざまな機能が自動化されて便利になっているため、親世代が育った時代と比べて、学校とのトイレギャップは大きい。それだけに「学校ではトイレを我慢する」という子も少なくないのだ。
改修するとどんな変化が生まれるのか。学校のトイレが子どもたちの心身に与える影響について、「学校のトイレ研究会」事務局長の冨岡千花子さんに聞いた。
「学校のトイレが汚い」を理由に排便を我慢→便秘に
いま「子どもの便秘」は社会問題になるほど増加している。食生活や生活様式の多様化に加え、学校トイレの衛生環境問題も影響しているとみられる。トイレ関連企業でつくる「学校のトイレ研究会」による医師を対象にしたアンケート調査では、94%が学校でのトイレの我慢は「体に悪影響を及ぼす」と回答した(2018年10月調べ)。医師たちからは、「排便を我慢することから便秘傾向」「学校のトイレが汚くてなかなか行きたがらず、夜尿・便秘の生活習慣改善ができなかった」などの声が寄せられた。
また、「学校のトイレは極力使いたがらず、帰宅まで我慢している」「学校では生理用ナプキンを交換しない」という小学生もいる。こうした行動について、かぶれや膀胱炎のリスクを指摘する医師もいる。
研究会調査で分かった「トイレ改修」が子どもたちに与える影響
トイレ環境の変化は、子どもたちの心と体に大きな影響を及ぼす。同研究会事務局長の冨岡千花子さんは、「私たちの調査から、学校のトイレがきれいになるだけで我慢が減る効果があることが分かりました」と話す。改修前は3割以上の子どもたちがトイレを我慢することがあったが、改修後はその子どもたちの7割以上が「我慢が減った」と回答。我慢してきた最大の理由は「トイレが汚いから」、次に「授業中には行きにくいから」だった。 改修後、なぜ我慢しなくなったのかを子どもたちに聞いたアンケートでは、「トイレがきれいで明るくなったから(79%)」「洋式になったから(52%)」「トイレが臭くなくなったから(38%)」「便座があたたかくなったから(同)」の回答が上位を占めた。
「トイレ=嫌いな場所」が一番好きな場所に
「トイレ環境によって、子どもたちの心境は本当に変わります。改修されていないトイレを使っている子どもたちに、学校で嫌いな場所を聞くとトイレが上位にくるのですが、それが改修後に聞くと学校で好きな場所の1位になるんです。行きたくないと思っているのは、そういう環境のトイレを使っているから。トイレががらっと明るくきれいになると、不思議と行きたい場所になるんです。改修してきれいになると、子どもたちは休み時間にばーっとトイレに駆け込んで、友だちとコミュニケーションをとって長居をしたり、じゃれ合ったりする姿がみられます。不思議だなと思うくらい、トイレ環境は大事です」と冨岡さんは話す。
男の子の中には、「からかわれるから学校では大便をしない」と決め込んでいる子どももいるが、改修したある公立小学校では、からかいを理由に大便を我慢する子がゼロになったという。これは汚いイメージのトイレが、子どもたちのコミュニケーションにまでマイナスの影響を与えていることを示唆している。
トイレが改修されても、ほとんどの学校は冷たい便座のまま
ただ、トイレが改修されても、便座は冷たいままという学校も多い。「家庭でも8割以上は温水洗浄便座です。駅のトイレや商業施設でも、冷たい便座はあまり見かけません。でも、子どもたちは今も学校で当たり前のように冷たい便座を使っています。冬場は、暖房が効いていない寒い空間で、冷たい便座に座るんです。
大人自身が子どもの頃もそうだったから、学校ではそういうものだと思われてしまっているのかもしれません。でも、家庭や外出先では温かいのに、学校の便座だけは冷たいままというのは、もう今の子どもたちには抵抗が大きいのではないでしょうか」
ちまたでは、あまり出合わなくなった冷たい便座。温かい便座に慣れた大人は「冷たい!」と感じるに違いない。子どもたちの気持ちを思うとかわいそうではないか。
心と体に大きな影響を及ぼす学校のトイレ環境。国全体が「こどもまんなか社会」を目指す中、子どもの目線に立った学校トイレの在り方が求められている。
【取材協力】学校のトイレ研究会
事務局長 冨岡千花子(とみおか・ちかこ)。清潔で快適な学校トイレを普及させるために、トイレ関連企業が結集して1996年に発足。空間建材・衛生設備・清掃メンテナンスに至るソフト・ハードの両面から調査・研究・啓発活動を重ねている。
https://www.school-toilet.jp/
【参考】
・学校のトイレ研究誌26号「学校トイレの挑戦 2023」
・学校のトイレ研究誌特別号「感染症対策ブック」