ただ、もし夫の命に限りがあるかもしれないとわかったら……。夫の真意がふいに見えてくることもありそうだ。
従順すぎる夫は本当にいい人なのか
結婚して15年経つリナさん(44歳)は、1歳年下の夫とケンカをしたことがないという。「ケンカにならないんですよ。私が何か言うと、夫は『わかった』と。従順すぎて(笑)。いい人なんです、本当に。だから私が文句を言うと、自分が夫をいじめているような気持ちになってしまう」
中学生の娘と小学生の息子がいるが、娘は父にいつも「ちゃんとパパの意見を言って」と迫っている。だが夫は「きみが好きなようにすればいいんだよ。パパはきみのやることに反対しないよ」と娘の意志を尊重する姿勢を崩さない。息子は「パパ、今度の日曜はキャッチボールだからね」と、まるで命令するかのような扱いだ。
「それでも夫はニコニコ喜んでいる。娘も『ああいうふうに言われると困るよね』と言いつつも、自分がどうしたいのか、何かあったとき自分の責任の範囲はどこまでなのかを考えるようになっています。そういう意味で夫の教育方針は間違ってはいない。だけど、親が指し示すこと、こっちが正しいよとアドバイスすることも大事なのではないかと私は思うんです。夫は『何が正しいかなんて人生、わからないよ』と恬淡(てんたん)としている。私はちょっと歯がゆさを感じていました」
親としての責任を放棄しているだけ?
すべて相手任せにしているだけではないかとリナさんは言ったことがある。だって、その人の人生だよ、子どもには子どもの人生があるんだよ。こっちが誘導することなんてできないと夫は穏やかに言った。「親として責任があるでしょと言ったら、『親が責任をとらなければいけないのは、子どもが罪を犯したときだよ』と。うちの子たちは親に反抗できないんですよ。何も押しつけられていないから。夫は『うちの子たちが犯罪をするわけがない』と信じ切っている。まあ、そういう態度を見せるのも大事かもしれないけど」
親として、これでいいのかとリナさんはときどき思っていた。
>夫への考えが大きく変化するできごとが起こった