大麻草の種子は、大麻取締法の規制対象になる?
2023年12月6日に、現在の大麻取締法を改正する法案が国会(参議院本会議)で可決・成立しました。これにより、近いうちに大麻取締法は「大麻草の栽培の規制に関する法律」(昭和23年7月10日法律第124号)に変わります。またこれと連動して、「麻薬及び向精神薬取締法」をはじめ10を超える法律が改正されることとなりました。
「自分は違法薬物なんかに絶対に手を出さないから関係ない」と考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、薬物規制については、日本の未来を決める事柄として全国民が正しい知識を備えるべきだと思います。今回は、報道でも誤った解説が見受けられる大麻取締法の規制対象について、なるべくわかりやすく解説したいと思います。
大麻とは何か? 「大麻取締法」から見る定義・規制内容
そもそも「大麻とは何か」を説明できる方は、少ないかもしれません。大麻に関連した法律の一つに「大麻取締法」があり、その冒頭に次のような条文があります。この条文が意味するところは、「大麻」とは、大麻草の葉、花穂、未熟な茎、根などとそれらを加工した製品のことであり、成熟した茎(樹脂を除く)や種子は「大麻」に該当しないということです。そして、報道でもこの条文だけが参照されて、「大麻草の種子は規制対象外」という説明が見受けられます。先日もあるテレビ番組で、大麻について詳しい専門医と称する方が「種子は大麻取締法の規制対象外」と解説されていたようですが、これは大きな間違いです。第一条 この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。
「七味唐辛子の中身の「麻の実」が大麻取締法に触れない理由」でふれたように、七味唐辛子に入っている「麻の実」は、まさに大麻草の種子であり、大麻取締法における「大麻」には該当しませんので、「大麻」の対象外であることは間違いありません。しかし、細かいようですが、種子が規制されていないわけではありません。
大麻取締法の他のところをよく読むと、次のような条文があります。
第二条 この法律で「大麻取扱者」とは、大麻栽培者及び大麻研究者をいう。
2 この法律で「大麻栽培者」とは、都道府県知事の免許を受けて、繊維若しくは種子を採取する目的で、大麻草を栽培する者をいう。
3 この法律で「大麻研究者」とは、都道府県知事の免許を受けて、大麻を研究する目的で大麻草を栽培し、又は大麻を使用する者をいう。
第二十四条 大麻を、みだりに、栽培し、本邦若しくは外国に輸入し、又は本邦若しくは外国から輸出した者は、七年以下の懲役に処する。
2 営利の目的で前項の罪を犯した者は、十年以下の懲役に処し、又は情状により十年以下の懲役及び三百万円以下の罰金に処する。
3 前二項の未遂罪は、罰する。
第二十四条の六 情を知つて、第二十四条第一項又は第二項の罪に当たる行為に要する資金、土地、建物、艦船、航空機、車両、設備、機械、器具又は原材料(大麻草の種子を含む。)を提供し、又は運搬した者は、三年以下の懲役に処する。
種子に関する内容を要約すると、
1. 大麻草の種子を採取するには、都道府県知事から「大麻栽培者」の免許を受けなければならない。
2. みだりに(許可なく)大麻草の栽培や大麻の輸出入を目的として種子を提供したり運搬すると懲役刑に処される。
ということが規定されているわけです。
「規制」とは、「特定の目的の実現のために、許認可・介入・手続き・禁止などのルールを設け、物事を制限すること」ですから、大麻草の種子が大麻取締法で「規制されている」、つまり「規制対象に含まれている」のは紛れもない事実です。
ですから、
「大麻草の種子は大麻取締法の規制対象外」
という説明は間違いで、正しくは
「大麻草の種子は大麻取締法で取り扱いが規制されているが、大麻には該当しない」
です。
参考までに、近く施行される見込みの新しい法律でも、大麻草の種子は「大麻」に該当しないと明記されています。七味唐辛子の中身の「麻の実」を食べることは、今後も問題ないというわけです。その一方で、「種子」という言葉が新しい法律中の50か所以上に記載され、種子の取り扱いが非常に細かく定められています。大麻草の不正な栽培を防ぐため、種子に関する規制がより厳しくなることを申し添えておきます。