再燃した日銀の利上げ観測。金利上昇で株価が上がる業種は?
そもそも日本の金利は“上昇”しているのか?
金利上昇で上がる株を探すうえにおいては、日本のこれまでの経済の状況を理解する必要があると思います。日本では10年債の利回りが上昇し、10月4日に10年ぶりの0.8%台に乗せたことがニュースになっています。たしかに、現象面だけをとらえれば“上昇”であることに間違いはありません。なにせ、日本の10年債利回りは一時期マイナスでしたから……。一方、景気の過熱感で同じ10年債利回りが4%台後半にある米国と同列に論じることは、ややミスリードになると思います。
日本の株式市場は1989年末ピークを付けました。この時の日経平均株価は3万8915円で、34年が経過しようとしている今も、依然としてこの高値を抜けていないのです。欧米、アジアを見渡しても、当時の高値は全てクリアしています。
日本ではいわゆる「バブル潰し」を行い、経済が悪化しているのに金融を引き締め、金融機関は土地の値段を下げるために「融資の総量規制」を実施しました。本来は景気が悪化する局面では金融を緩和し、融資を積極化させるのがセオリーです。
例のないデフレスパイラルに苦しんだ銀行
こうした誤った施策で日本はデフレ(物価の継続的な下落)スパイラルに突入しました。お金の需要がなくなり、10年債の利回りがなんとマイナスになる局面もありました。債券は売却すれば、対価として現金を得ますが、「マイナス金利」下ではお金を払って債券を売る、という事態を意味します。日本経済が景気減速→消費低迷→企業の売上げ減少→賃金減少→消費低迷という、世界でも例のないデフレスパイラルに落ち込む中、資金需要が極端に減ってしまったことがこうした現象を引き起こしました。企業の倒産も増加しています。
当時、民間銀行は資金の借り手がいないので、余ったお金を中央銀行である日本銀行に当座預金として預け、これにより「付利」という一種の利息を得ていました。預金金利がほとんどゼロの個人を中心に不満が出て、政治問題にもなりました。一方、景気の悪化で貸したお金が返ってこない「不良債権問題」も深刻化していました。銀行はそれだけ、苦しんでいたのです。
デフレ脱却&経済正常化で銀行株が上昇傾向
コロナ禍からの回復で日本経済がようやく正常化への道のりを歩み始めています。企業は商品の値段を多少上げても売上高が伸びるようになり、賃金も増加傾向で消費者の購買意欲も高まりつつあります。企業は先々の売り上げ拡大を見込み、工場の建設など設備投資に進むところも増えてきました。銀行は資金需要が増える形で貸出が増加すると、貸出金利を引き上げることができます。預金金利よりも先行して上昇する傾向が高いので、「利ザヤ(貸出金利と預金金利の差)」が拡大し、業績がアップすることになります。長いデフレを抜け、経済が正常化することはこれまで苦しんだ銀行の経営が改善することになります。
金利の上昇というよりは、これまで低すぎた金利の正常化で業績が改善、株価もこれを反映する格好で上昇していくことが想定されます。三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306>、三井住友フィナンシャルグループ<8316>、みずほフィナンシャルグループ<8411>のメガバンクのほか、千葉銀行<8331>、横浜銀行を傘下に持つコンコルディア・フィナンシャルグループ<7186>などの地銀上位行も注目されそうです。
生損保・ノンバンクにも追い風
一方、金利が付くことは、資金を運用する側にも恩恵になります。例えば、生命保険会社や損害保険会社などが該当します。こうした企業は顧客からお金を集めて、まとめて運用します。そして顧客の入院や死亡の生命保険、事故などの損害保険の支払いに充当するビジネスモデルです。マイナス金利では苦戦しましたが、米国での長期金利が5%などと上昇していることで運用成績の向上が期待できます。今後、日本の金利が上がれば、なお追い風になるでしょう。東京海上ホールディングス<8766>、T&Dホールディングス<8795>、SOMPOホールディングス<8630>などが該当します。
また、ノンバンクのアイフル<8515>、ジャックス<8584>、オリエントコーポレーション<8585>なども該当するかもしれません。