意外な場所で、偶然の再会
大阪への出張中に、意外な人物と再会を果たす
「それが出身地でも東京でもなく、大阪の地でした。たまたま社内研修で大阪支社に行く機会があったんです。支社の人たちと食事をすることになり、指定された店に向かって歩いていたら、向こうからきた同僚に大きな声で名前を呼ばれた。思わず手を振ったんですが、横から急に男性が飛び出してきて、『ヨウコさん? 本当にヨウコさん?』って。言われてすぐにわかりました。私が高校時代、片思いしていたハヤシダくんだって」
どうしてここにいるの、何してるの、今どこに住んでるのとハヤシダくんは矢継ぎ早に質問しつつ、「とにかく元気そうでよかった。ごめん、今、仕事で急いでるから。連絡して」と名刺を取り出し、携帯番号を書いてくれた。
「嵐のように質問して、嵐のように去っていきました。今、目の前で起こったことが信じられなくて、私はしばらく呆然としていた。名前を呼んだ同僚に『どうしたの、大丈夫?』と言われるまで、頭が混乱していました」
時間を惜しんで……
その晩、彼に連絡をとると、彼もまた東京勤務で、大阪には出張で来ていることがわかった。しかも東京での勤務先はそれほど遠くはなかったのに、なぜか東京で会わず大阪で再会したのだった。「東京に戻ってすぐに食事に行きました。過去から現在まで、どんなに話しても時間が足りないくらいだった。ハッと時計を見たら夜11時を過ぎていて、『遅くなって大丈夫なの?』と聞いたら、『きみこそ』って。私は独身だからと言うと、『オレも』と。彼は若い頃一度、短期間結婚していたことがあるそうですが、子どもはいなくて、それからずっと独身だとわかった」
それからふたりは時間を惜しんで会い、話をした。会話のリズムやペースが合うこと、食の好みが合うこともわかった。
「再会して3カ月で婚姻届を出しました。私はコロナ禍で母を亡くしていたし、彼は実家に両親はいるものの、兄一家が同居しているため、遠慮もあってあまり家には帰っていないみたい。一緒にいるほうが自然だねということになりました」
とはいえ、互いにひとり暮らしが長かったため、いきなりの同居にはためらいがあった。今はひとり暮らしの家を行ったり来たりしながら、週末婚を実践している。
「ただ、30年のブランクがあっても、彼に会えばあの頃の自分にも会えるような気がして……。未知の人と会って恋愛へと発展していくのも楽しいでしょうけど、私にはベースとして信頼できる人との再会のほうが気が楽だったしうれしかった。30年たっても彼のよさは変わってない。あの頃、自分もヨウコさんのことが好きだったんだよと言われて、『あの頃の私に教えてあげたい』と思いました(笑)」
ほのぼのとするような関係を育んでいるヨウコさん、「奇跡ってあるんですね」と明るい笑顔を見せた。