済生会川口総合病院の皮膚科医でフットケア外来を開設し、足育研究会の代表も務める高山かおる先生に話をうかがいました。
上履きが子どもの足トラブルを引き起こすかも!?
最近、東京都内の公立小中学校では、上履きを廃止し「一足制」を導入するところが増えつつあります。港区や中野区、台東区をはじめ6区で「一足制」の導入実績があり、港区では26校中24校で採用されています(2023年2月末時点・品川区文教委員会資料より)。高山先生は、これは子どもの足の成長を考えると望ましいことといいます。というのも、よくあるバレエシューズタイプの上履きは、子どもの足の成長に適したものではないからだそう。
「理想的な子どもの靴の条件のひとつは、かかとから足の指の付け根までしっかりホールドして支えてくれ、指先が自由に動けるようになっているつくりであること。バレエシューズタイプの上履きは全体的にやわらかいので、活発な子どもの足の動きを支えるだけの力がなく、正しい姿勢保持に適していないんです。とくに、かかとの骨は体の向きや足の向きを決める大事なもの。体の内側に傾けば外反扁平足に、外側に傾けばO脚になってしまいます」 また、紐やベルトが付いていて、土踏まずのアーチをしっかり保持できることも、子どもの靴の条件として大切なことだそう。「アーチがつぶれやすい靴は、足の機能が成長途中で未熟な子どもが履くと、足の指が曲がって変形してしまう」と注意を促します。
実は子どもにも多い足トラブル
足に合わない上履きを履き続けることは、骨のゆがみにつながると高山先生は指摘します。「骨と骨は関節でつながっているため、どこかが歪めばまた別の箇所が歪んでいく、いわば積み木みたいなもの。膝が内側に入りやすければ、将来外反母趾になるリスクが高まります。ほかにも外反扁平足や爪の変形、巻き爪、たこ、ウオノメ、ひいては膝や腰の痛みを引き起こすこともあります」
こうした足のトラブルは、大人になってはじめて現れるわけではないのだとか。
「小学生でもひどい外反母趾の子がクラスに1人くらいいると思います。また診察をしていると、足の小指は7~8割の子が曲がっています。爪がまっすぐ上を向いていない子も多いですね」
親が気づいていないだけで、子どもが足のトラブルを抱えていることも多いかもしれません。
「足裏の小さな面積で重い体を支えなければなりませんから、重力に逆らい、二本足で歩くのは大変なことです。二足歩行がぎこちないロボットの姿がわかりやすいでしょう。それを制御しているのが人間の足だと考えれば、足の丈夫さは、体の健康の指標ともいえます」
習い事シューズにも注意
足の健康と運動神経は無関係です。たまに「うちの子は足が速いから」とか「サッカーが上手だから大丈夫」という人がいるそうですが、「運動神経がよくても足にトラブルを抱えているお子さんはいますから、よく見てあげてください」と高山先生。子どもの習い事用シューズのなかでも、サッカーシューズはなぜか小さいサイズを選ぶ傾向にあるため注意が必要だそう。また、バレエのトウシューズも、あまりに早く履かせた場合、足の骨の成長を考えるとリスクがあるそうです。
人生100年時代。足は歯と同じように向き合うべき
子どもの足は、生まれたときは軟骨で、小学校卒業くらいまでにしっかりとした骨になっていきます。「その期間に足に合わない靴を履くと、指の骨が曲がってしまったり、骨と骨が関節をつくるときにしかるべき方向にジョイントしなかったりします。一度曲がると大人になっても治りません。不完全な骨を健やかに育てていくとても大切な時期なんです」
足の成長に関しては、歯と同じように考えてほしいと高山先生は強調します。
「歯は乳歯だって、しっかり磨くでしょう。子どもの頃から正しい歯磨きを習慣づけて、80歳になっても20本の歯を保つことを目指していますよね。それと同じと思えば、足とどう向き合っていくべきかもわかると思います」
最近の子どもはアスファルトの上を歩くことが多く、公園の遊具や遊びが制限されることも増えているため、昔に比べると足の機能が落ちているのではないかという懸念もあるそうです。
「もっと子どもの足に対して、未熟なものを育てているという意識で向き合ってほしいと思います。人生100年時代ですから、足を早いうちから痛めることはなるべく避け、ぜひ丈夫に育てていってください」