ペラペラの薄い上履きは避難に適していない。中には、ひどい状態の上履きも……
都内の一部地域などでは上履きを廃止して、下足で過ごす「一足制」の導入が少しずつ広がっていますが、その大きなメリットが「防災面」です。
防災の観点からは望ましくない上履き
防災の観点から見た「一足制」のメリットや上履きのデメリットを、済生会川口総合病院の皮膚科医でフットケア外来を開設し、足育研究会の代表も務める高山かおる先生にうかがいました。「災害の多い日本では、いつ避難しなければならない状況に陥るかわかりません。途中にガラスのような尖ったものが落ちているかもしれないし、火災により熱くなったものを踏んでしまうかもしれない。そんな場所をペラペラの薄い上履きで歩いたらケガをしてしまいます」
避難時の靴は、耐久性だけでなく動きやすさも重要だといいます。
「バンド部分がゆるくなっていたり、かかと部分を踏んでいたり、ひどい状態で履いているお子さんもいます。そうなると当然走りにくいし、逃げにくい。靴底のゴム部分に亀裂がたくさん入っていると、水にもすぐに濡れてしまいます。上履きは履く時間が長い分、寿命も短くなりますが、子どもがちゃんと持ち帰らないと、親が状態を管理できないのも問題です」
外で使うことを前提につくられた一般的な靴は、つくりも上履きよりもしっかりしています。一足制であれば、子どもに足に合った靴を選びやすくなります。
「一般的にバレエシューズタイプの上履きは、ぐにゃぐにゃで子どもの足にフィットしません。大事なかかとの骨をホールドできず、指も曲がるべきところで曲がらず、成長中のやわらかい子どもの骨が変形してしまう可能性もある。あえて履かせる理由がないんですよ。紐付きの体育館シューズがあれば、それを上履きに流用するほうがよいのではないでしょうか」
ちなみに中学生の場合、ローファーで通学して上履きに履き替えることもありますが、ローファーも子どもの足の成長にとってよい靴とはいえないそう。紐がなく、どこも調整できないため、合わない子どもも多いといいます。
靴は正しく履かなければ、宝の持ち腐れに
正しい靴を選んだら、正しく履くことも大事。「そもそも学校の昇降口は、靴をちゃんと履ける環境ではありません」と高山先生は指摘します。「下駄箱というくらいなので、下駄を履くにはよかったのかもしれませんが、紐を結んだり、ベルトをしっかり締めるような動作はしにくいですよね。どんなにいい靴を選んでも、ちゃんと履かなければ宝の持ち腐れです。靴はかかとに合わせて軽くコンコンとし、靴紐をしっかり結ぶのが正しい履き方。子どものうちからやらないと、正しい履き方はなかなか覚えられません」
一足制にすれば、自分に合った靴を自宅の玄関でしっかり履いてくることができ、脱ぎ履きする時間とスペースも節約できます。また、災害時に子どもたちがうっかり外履きに履き替えようとすることもなくなり、よりスムーズな避難ができそうです。
一方、上履きのメリットとしてよく挙げられるのが衛生面です。
「たしかにコロナ禍、上履きは衛生的だといわれました。一理あるとは思いますが、きれいな状態で履いていないお子さんもいますし、学校の上履きはその靴でトイレにも行くし、どこまでメリットがあるかは疑問が残ります。土足を脱ぐことで、多少リラックス感があるのかもしれませんが……」と高山先生は疑問視します。
病院でも航空会社でも…… 時代とともに見直される履物
かつて看護師さんがよく履いていたナースサンダルは、今では小規模なクリニックなどを除いて、ほぼ見かけません。リスク管理の観点から、しっかりした靴を履くのが病院の常識になっているそうです。また最近では、LCC(格安航空会社)のZIPAIR Tokyoの客室乗務員の制服として、スニーカーが採用されたことが話題になりました。疲れにくさはもちろん、動きやすさも考えられてのことです。
学校で一足制を導入することに抵抗感を示す人も少なくありませんが、防災のように子どもの命にも関わるものなので、メリット・デメリットをしっかり比較検討するのがよさそうです。