大学も私を追いかけるように上京
ミキさんは東京の大学に進学するために上京した。遅れること3年、ヨウタさんも東京にやってきた。「私はもう4年生だったから就職も決まっていて。ちょうどそのころ私は大失恋したばかりだったんですよ。お互いに仕事が落ち着いたら結婚しようとまで言っていた相手がいたんですが、実はバイト先の女性とふたまたをかけられていた。単なる遊び、ただの浮気、本気なのはミキだけと言われたけど、裏切られた事実に耐えられなくて別れたんです。ヨウタが1年生の夏ごろだったかな、さんざん泣いて別れを決めたのは。ヨウタはボロボロになった私の話をじっと聞いてくれました。泣きたいときは泣かせてくれた。ヨウタのおかげで、私はなんとか立ち直れたんだと思います」
どんな親しい女友だちよりも、ヨウタさんのそばにいることで彼女は心が安定するのを感じていたという。
「それからも仕事で疲れたとき、ヨウタの就職がなかなか決まらなくてヤケになっていたときなど、お互いに弱っているときは必ずそばにいました。ふだんでも、映画を観に行こうと思ったら、まずヨウタを誘う。『今からどう?』って。都合が合わなければひとりで行きますが、気軽に誘えるんですよ。前もって連絡して予定を決めたりしなくても、『どう?』『いいね、どこ? 今すぐ行く』みたいに」
「恋愛関係」に発展しないのか?
そんな心地いい関係なのに、「絶対に」恋愛にはならないとミキさんは言う。ヨウタさんには恋愛感情を持っていないからだ。「社会人になってから仕事関係で知り合った人やマッチングアプリで知り合った人と、何度か恋愛に発展したことはあります。そのことはヨウタにも話していたし、ヨウタも彼女ができたときは教えてくれる。でもヨウタは20代のうちは恋愛より仕事を優先すると言って、あまり深い付き合いはなかったみたい。私は誰かと真剣につきあって30歳くらいで結婚したいと思っていた。だけど結局、どこか相性がよくないというか、長続きしないんですよ。居心地がよくない」
30歳を過ぎてから、「ヨウタがいるから恋が続かないんだ」とふと思った。ヨウタさんとのテンポとリズムのかみ合った会話、さらっとした思いやりなどを思い返すと、他の誰かでは味わえない心地よさがやはりあるのだ、と。
「でもヨウタと付き合うことは考えられない。もうこれはヨウタから卒業するしかないのかもしれない」
ちょうどそんなとき、ヨウタさんの転勤が決まった。国内だが飛行機でなければ行けない距離だ。遊びにおいでねとヨウタさんは言って、笑顔で別れた。
「それから気持ちがすっかり落ち込んでしまって。ヨウタとはLINEや電話でコミュニケーションはとっているけど、やっぱり会って居酒屋でしゃべりながら飲みたいんですよ」
飛行機でヨウタのアパートへ……
半年ほどたったころ、ミキさんはヨウタさんに会いに行った。やっと会えたとふたりは笑いあい、思い切り飲んでしゃべった。「ヨウタが住んでいるアパートに泊まりました。もちろん何もないですよ。会社では、東京の恋人がヨウタに会いにきたと噂になったみたいだけど、ヨウタも『ねえちゃんだから』と押し通したらしい。他人から見たらヘンな関係ですよね」
その2カ月後には、ヨウタさんが東京へ来てまた会った。結局、転勤している間、数カ月に1度は会っていたことになる。
「私はその間も恋愛しようとがんばっていたし、付き合った人もいるんですが、相変わらず長続きしない」
そしてミキさんが出した結論は、「成り行きに任せる」だった。ヨウタさんが結婚すれば、関係も変わるかもしれないと期待したこともあるが、どうやらヨウタさんはまだまだ結婚するつもりもないらしい。
「ヨウタと私の幼なじみ物語がどうなるのか、私の古い友人などは楽しみにしているくらい(笑)。どうにもならないことは私たちがいちばんよく知ってるんですけどね。ヨウタを無理してぶった切ることもできないし、こうなったらなりゆきに任せようと思います」
やっとそんな境地になったら、ちょうど仕事がおもしろくなり、今は仕事に没頭しているとミキさんは笑う。もちろん人によるだろうが、「親しすぎる男友だち」の存在は、多かれ少なかれ恋愛に影響するのかもしれない。