就職してからも、騙されてしまった私
大学を卒業した彼女は、第一志望の企業に入社した。そしてそこで今度は「離婚したばかり」だという取引先の30歳の男性と恋に落ちてしまう。ところが彼は離婚などしていなかった。「彼は私と同じ部署の人たちにも、自分はバツイチだからと明るく話していたんですよ。だから信じてしまった。ただ、仕事で知り合ってプライベートな関係になってしまったのは、まだ秘密にしておこうと彼が言う。私もそれがいいと感じていた。1年ほどつきあったころでしょうか、その社の担当が変わったんです。新しい担当者が『彼は子どもが生まれたばかりだから』って……。さすがにそのときは『彼、結婚していたんですか』と素っ頓狂な声を出してしまいました」
アイリさんと彼がつきあっていることは誰も知らなかった。彼女も大事に育てていきたい関係だと信じていたから、秘密裡にしていたのだ。
「裏切られたというより、だまされたと思いました。彼の会社の人に言ってやろうかと思ったけど、私もまだ入社2年目。自分がいけなかったと思うしかありませんでした」
ただ、彼はその数年後、同じような手口で別の会社の女性をだまし、その女性が会社に怒鳴り込んできたことで悪事が発覚、退職したそうだ。それを聞いたとき、アイリさんの気持ちも少しだけ晴れたという。
マッチングアプリで出会い、3度目の不倫
そして今、彼女は3度目の「不倫」で傷ついている。今回は相手が単身赴任だったのを知らなかったのだ。「彼とはマッチングアプリで知り合いました。同い年で、都内の賃貸マンションでひとり暮らし。故郷は西日本のある県の県庁所在地で、大学のときから東京にいる、と。バーを経営しているというんです。バーにも行ったけど疑わしいところはなかった。もっとも彼は『仕事場にはあまり来てほしくない』と言ってたし、その気持ちはわかるから数回しか行っていませんけどね」
彼の部屋にはよく行った。いかにも男のひとり暮らし、殺風景だがステレオだけは立派だった。彼はジャンルを問わず音楽が大好きだったのだ。
「店でかける音楽も自分で選んでいると言っていました。ちょうど私、昇任試験を受けるところだったんですが、彼は応援してくれていた。私が試験に受かったら結婚しようと話していたんです」
2年つきあった。彼女の合格を知った彼は、「今日は店を従業員に任せる」と言って自ら料理を作って祝ってくれた。その最中、彼の携帯が鳴った。
「電話に出た彼が真っ青になって……。電話を切ると、『ごめん、今からまだ新幹線に乗れるよね。帰らなくちゃ』って。おとうさんが倒れたとおかあさんから連絡があったと。私は彼の家の鍵をもっていなかったから、一緒に出て東京駅まで見送りました」
翌日、彼から連絡があった。おとうさんは残念ながら亡くなったという。お通夜やお葬式があるからしばらく帰れないと聞き、とにかく疲れがたまらないよう気をつけてと涙声の彼を励ました。
「なんとなく彼を感じたくて、彼の店に行ったんです。そうしたら私を覚えていた店の人が、『今日は店長、いないんですよ』と言った。店長という言葉に違和感があって、あの人はオーナーではないのかと聞いたら、雇われ店長だと。『今日はお子さんが病気になったので、自宅に戻ってます』とも言われました。自宅、広島だから遠いんですけど、さっき連絡があってお子さんが念のため入院したので2、3日は帰れないらしいですって」
アイリさんは顔面蒼白になっていたのだろう。店の人に心配された。どこをどう通って帰ってきたのか、ほとんど記憶がないそうだ。
「全部聞いた、もう連絡しないでとメッセージを送りました。彼は『ごめん』とだけ。男運が悪いのか、私が甘いのか。こう立て続けに既婚者とばかり恋をするのは、私がそういう恋を引きつけるんだろうと親友は言うんですが……。私はまともな恋をしてまともに結婚したいだけなんですが」
苦笑いが泣き笑いのような表情になった。