初めての恋愛だったのに
「初めての大人の恋は大学生のときでした。相手はアルバイト先の正社員だった。私は他の人と隔離されて個室でコンピューター関係の仕事をしていたので、バイト仲間ともほとんど話す機会がなかったんです。1カ月のアルバイトが終わる寸前、彼から猛烈なアプローチをされて……。誘われて食事に行ったら、小さなダイヤのついたネックレスをもらいました。バイト代以上の仕事をしてくれたお礼だと。そしてつきあってほしいと言われたんです」
懐かしそうに当時のことを話すアイリさん(32歳)。彼女も7歳年上の彼を好きになっていた。それから彼とはデートを重ねた。仕事が忙しいからと会えないことも多々あったが、平均すれば週に2回は会っていたという。
「彼は自分は親と同居だからと、私のひとり暮らしのアパートに泊まっていくこともありました。連絡は携帯だし、私は彼の自宅の住所も知らなかったけど、最寄り駅はわかっていたし、特に不審には思わなかった」
つきあって半年たち、「今度、旅行でもしたいな」と言った彼女に、彼は「いいよ、車で行こうか。中古だけど」と笑った。彼女は彼が車を持っていることさえ知らなかったことに気づいた。
「なんだかわからないけど、頭の中で黄色信号が点滅したような気がしました。彼について、私はまだまだ知らないことがあるはずだと」
親友からの鋭い指摘、嘘だらけの正体
1泊ドライブ旅行の当日、迎えに来るはずの彼が約束の時間から1時間たっても来ない。連絡もつかなかった。会社に電話をしてみたが、休日のため誰も出ない。彼女は焦った。
「急に見捨てられたんだと思いました。あわてて親友に電話をして会ってもらった。すると彼女、しばらく考えてから『前からアイリの話を聞きながら思ってたんだけど、彼、結婚してるんじゃないの?』って。うわーっと叫びましたよ。そんなこと考えてもいなかった。だって当時、彼は26歳だし出会ったのは彼が入社して3年目ですよ。早く結婚していたって不思議じゃないし、もしかしたら年齢も嘘かもと彼女が言い出して……」
3日後、彼からようやく連絡があった。「突然の体調不良で病院に運ばれて、意識もなかった」というのだ。不自然だった。その日のうちに会って問い詰めると、彼は実際は10歳年上で既婚、ドライブの日は生まれて半年の子どもが熱を出して病院に連れていったのだと白状した。
「きみのことが好きで言えなかった」
人目のあるカフェで涙ぐみながらそう言った彼を一瞥し、彼女は無言で席を立った。