英国のファッションブランド「Mother of Pearl」クリエイティブ・ディレクターを務めるエイミー・パウニー
大量消費が当たり前だった当時のファッション業界に危機感を抱いていたエイミーは、新人賞の賞金10万ポンドをもとに、サステナブルコレクション「No Frills(以下、ノー・フリル)」を発表することを決意。コレクションの発表まで18カ月というタイムリミットの中、エイミーと仲間たちはさまざまな困難に遭遇しながらも、理想の素材を求めて地球の裏側まで旅をします。
1年半以上にわたってエイミー・パウニーに密着し、映画『ファッション・リイマジン』を撮影したベッキー・ハトナー監督
製造工程が複雑なファッション業界。幾つもの国を経由して、消費者の元へ届く
――『ファッション・リイマジン』では、サステナブルな素材、主に「ノンミュールズウール(自然なままに飼育された羊から刈り取ったウールのこと)」を供給する仕入れ先を確保するために、エイミーが奮闘する様子が描かれています。ウルグアイやペルーなどで撮影を行うと決まった時、ハトナー監督はどのように感じましたか?ハトナー監督:「賞金を何に使うのか」と聞いた時、エイミーはすでにリサーチを数カ月行った段階でした。そして、全ての素材の仕入れ先がわかるような服を作るというミッションに向かうのだと話してくれました。
トルコからペルーに行くことに。アンデスでアルパカに囲まれたり……
またこの旅は、予算も時間も限られていたので、飛行機などを利用することになりました。そういった意味で「(完全に)エコじゃない」というのはちょっと残念でした。
ファッションを楽しみながら持続可能な未来を創る
――エイミーのサステナブルコレクション「ノー・フリル(飾りはいらない)」は、そのネーミングとは裏腹に、遊び心のあるデザインです。ウルグアイやペルーへの旅は、エイミーのデザインに影響を与えたと感じますか?「Serious fashion, not to be worn too seriously(真面目すぎない、真面目なファッション)」 というコンセプトを掲げる「マザー・オブ・パール」
サプライチェーンをさかのぼって、自分の使っている素材がどこから来ているのかを自分の目で確かめるデザイナーはほとんどいないと思うんです。布であったり、関わった人であったり、動物の果たした役割も含めて、全てを理解しているからこそ、完成した服がいかに大事なものかという感謝の気持ちがより強い。それが彼女のデザイナーとしての強みにもなっています。
ウルグアイで、高品質な天然ウールを生産するラナス・トリニダード社の責任者、ペドロ・オテギ
服作りの順序を変えた革新性
ファッション業界は、製造工程が複雑で、幾つもの国を経由しているため、地球の裏側まで旅をすることに
通常のデザインのプロセスとは真逆、学校で教わることとも真逆なんだけれども、人としてもよりよい人になれたと思うし、地球のためにも、そしてエイミーのデザインのためにも素敵なことですよね。
エイミーの服づくりの原点
――ロンドンのファッションシーンにおいて、エイミー・パウニーというデザイナー、そして、「マザー・オブ・パール」というブランドの独自性をどのように捉えていますか? その魅力を教えてください。エイミー・パウニーとアナ・ウィンター(VOGUE編集長)
でも、エイミーは有名なイギリスのファッション学校を出ていないんです。ロンドン郊外にあるファッションの学校に通っていて、業界に入ろうと思ったときは資金も人脈もなく、「マザー・オブ・パール」でしか仕事をしたことがありません。
20代後半で、「マザー・オブ・パール」のクリエイティブ・ディレクターに就任
セレブがエイミーのデザインした服を着るようになり、いろいろとよい報道もされるようになって、2017年に英国最優秀新人デザイナーを受賞しましたが、その当時、エイミーのバックグラウンドは知られていなかったんです。
エイミーの両親が環境活動家で、サステナビリティと関係が深い人物であり、卒業制作がそうした作品だったことすら認知されていませんでした。突然サステナブル・ムーブメントがファッション業界で全面に押し出されたという感じだったんです。
セレブも愛用するブランドへ
エイミーが注目されると共に、彼女のブランドもより知られるようになりましたが、私はこの後のエイミーのストーリーをとても気に入っています。ファッション業界に入った時、エイミーは地方出身であること、そんなにお金のない家庭で、それこそ水や電気がない自給自足の状態で生活をするという経験をしてきたということを隠していました。
でも「ノー・フリル」の頃から、もう隠さない、それが自分なんだというように、エイミー自身が思えた。そして、ファッション業界がエイミーを親愛の情をもって受け入れた。そのことを私はとても素晴らしいことだと思っています。
アンジェリーナ・ジョリーなど、セレブから支持されるブランドに
ちょっと調べてみないと、そういう特別な部分が見えないところ。サステナビリティが優れているからといって、誰もが知る有名なブランドになれないところが、私たちの生きる現代社会ということなんですけどね。
今では、キャリー・マリガンやアンジェリーナ・ジョリーといったチャリティ活動に熱心なセレブたちが、「マザー・オブ・パール」で買い物をしていることがわかっています。エイミーと同じような考え方、理念を持っている人々が、「マザー・オブ・パール」を購入しているのです。
ファッション業界の問題解決と未来
――エイミーのサステナブルコレクション「ノー・フリル」は、ファッションのビジネスモデルを変革した1つの事例として評価されています。本作を制作した経緯や意図をお教えいただけますか?ハトナー監督:私自身も、もともとサステナビリティに興味を持っていて、このプロジェクトで関わる前から自分に何ができるかということや、私生活の中で自分でできることを考えていました。
映画『ファッション・リイマジン』の打ち合わせの様子
エイミーは、サステナブルな素材を求めて、ブランドのビジネスモデルを変えていく
ベッキー・ハトナー監督
映画『ファッション・リイマジン』ベッキー・ハトナー監督
カナダ、トロント出身。
英国政府観光庁によるイギリスのクリエイティビティを讃えるキャンペーンのほか、ロンドン・ファッション・ウィークの公式取材を17シーズンにわたって担当している。⻑編映画デビュー作となる本作は、トライベッカ映画祭に正式出品され、バンクーバー国際映画祭では最もポピュラーな環境映画賞を受賞したほか、グアム国際映画祭においても最優秀ドキュメンタリー映画賞、ベスト・フェスティバル賞などを受賞。
エイミー・パウニー
Mother of Pearl クリエイティブ・ディレクター エイミー・パウニー
1985年生まれ。
2002年、キングストン大学に入学し、ファッション・デザインを専攻。2006年に大学を卒業し、Mother of Pearlにアシスタントとして入社。その後、スタジオ・マネージャーに昇進し、2015年にクリエイティブ・ディレクターに就任する。2017年、英国最優秀新人デザイナーに選ばれ、その賞金でサステナブルなライン、No Frills(ノー・フリル)を立ち上げる。英国におけるサステナブル・ファッションのリーダーとして広く知られる。
Mother of Pearl
現代アーティスト、ダミアン・ハーストの妻だったマイア・ノーマンによって2012年に設立。「人生は一度きりだから、特別なものを身に着けたい」との思いから、パーソンズ美術大学パリ分校でファインアートの学位を取得していたマイアは、夫のコネクションも生かし、シーズンごとにさまざまなアーティストとコラボしたコレクションを展開する。オフィシャルサイト:https://motherofpearl.co.uk/
映画『ファッション・リイマジン』
2022年製作/100分/G/イギリス原題:Fashion Reimagined
劇場公開日:2023年9月22日
オフィシャルサイト:https://www.flag-pictures.co.jp/fashion-reimagine/