過去ばかり見ていないでとは思うのだが
ついに還暦!
「いやあ、もう60歳になってしまいました。自分でもびっくりですよね」明るくそう言うのはカナエさんだ。この春、60歳を越えた。とはいえ、週4日のパートは続けているし、合間にはスポーツジムへ出かけてせっせと体を鍛えている。案外、握力が強いんですよと笑った。
「夫は2歳年上なんだけど、私の誕生日にニヤリと笑って『同じ60代だね』って。よっぽどひとり60代でいるのが嫌だったみたい」
結婚して30年、長男は独身だが家を出てひとり暮らしをしている。どうやら彼女もいそうだ。長女は仕事が大好きで、勤め先から自転車で15分という場所で生活している。こちらは、当分恋愛もいらないと言い切っている。
「いろいろあったけどふたりの子を社会に送り出した。もうそれでいいじゃないですか。あとは私たちができるだけ長く健康で、子どもたちに心配をかけないように楽しく暮らすだけ。私はそう思っているんです」
過去のことばかりを次から次へ
ところが夫は、最近になってやたらと昔のことをほじくり返すようになった。ふたりで鍋をつついていると、「そういえば息子が最初に外ですき焼きを食べたときにさあ」と、あまりにおいしくてびっくりした息子のことを語り出す。「正直言って、私はそういうことをあんまり覚えてないタイプなんです。夫は『ほら、きみの両親の結婚記念日にあの専門店ですき焼き、食べただろ』と細かいことまでしつこい(笑)。そうだっけというと、『冷たいなあ』とため息をつく。あんまり言うから、息子がうちに来たとき、思わず『私、冷たい母親だった?』と聞いちゃいましたよ」
過去のことばかり話すのは、夫の「今」が充実していないからではないかとカナエさんは思っている。
「夫はいったん定年になって、その後は同じ会社で働いているんですが、あまり充実感もないみたい。だったら少し遊べばいいのに、『ひとりでどこへ行けばいいんだ』って。私だって最初はひとりでスポーツジムに行きましたよ。行けば顔見知りができると言っても、おっくうがって行かないんですよね」
昔のことを話したいなら、学生時代の友だちと会えばいいと言っても浮かない顔をしている。
>高校・大学時の友人に連絡を取ろうともしない