ここでは代表的メーカーブランドのフェンダー、ギブソンを中心に、これからエレキギターを始める方に向けて基本的な材質、そしてデザインの特徴などを紹介します。
<目次>
世界のエレキギター市場は年々成長している
世界的にエレキギターの売り上げが好調です。アメリカの代表的なエレキギターブランドのフェンダーは、いわゆる巣ごもり需要の影響で2020年の売上が過去最大になりました。日本では、昨年末に放映されたテレビアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』(TOKYO MX)の大ヒットで関連の楽器が売れています。2023年夏には、フェンダーが世界初の旗艦店を東京・原宿にオープンしたことも楽器ファンの間で話題です。
世界のエレキギター市場は年々成長しており、フランスの調査会社リポートリンカーによると、2027年には38億万ドル以上に成長すると予想されています。
いまさら聞けない、エレキギターとは?
伝統的なクラッシックギター、フォークギターなどのアコースティック・ギターや伝統的なウクレレ、三味線などは、爪弾いた音の弦の振動で箱状の楽器本体を共鳴させて音を出します。一方、エレキギター(エレクトリック・ギター=electric guitar)は、約100年前にその仕組みが発明された比較的新しい楽器です。金属製の弦の振動をピックアップ(マイク)で拾って弱い電気信号に変えた音を、ギター・アンプと呼ばれる増幅装置に繋いで大きな音を出す仕組みになっています。
エレキギターとアコースティック・ギターの調律(チューニング)は基本的に同じですが、このように音を出すシステムが違います。
エレキギターの各部名称
エレキギターは写真のように木製のボディとネックで構成されています。 1. ボディ(=Body)フォルムを決定する本体の部分で弦楽器の「胴」と呼ばれる部分。エレキギターは主に無垢(むく)の木材(ソリッド・ウッド)で作られています。広葉樹が使われることが多く、フェンダーではアルダー、アッシュなどが使用されています。ギブソン・レスポールはマホガニー材を基材にして表面にはメイプルが使われています。
2. ネック(=Neck)
ヘッド、指板、フレットなどで構成された弦が張られた「竿」と呼ばれる部位。エレキギターは鉄製の弦を強く引っ張るため剛性が高い材料が使われます。フェンダーではメイプルが、ギブソンではマホガニーが多く使用されています。指板にはローズウッドやメイプルが使われることが一般的で、硬いエボニー(黒檀)が採用されることもあります。
このようにエレキギター本体には、高価な家具やハイグレードなインテリアや建築材料で使われる高級木材が使われています。
3. ブリッジ(=Bridge)
弦を固定して弦の振動をボディに伝える部分でスチールなどの金属でできています。サドル(駒)と呼ばれる部品で、弦の高さやオクターブ調整など正確なチューニングを行うこともできます。
4. ピックアップ(=Pickup)
弦の振動音を拾うパーツ。ギターの鉄製の弦が振動で発生した弱い電気信号を拾ってギターアンプに送ります。シングルピックアップ、ハムバッキング(ハムバッカー)と呼ばれるタイプがあります。
5. ヘッドストック(=Head Stock)
ヘッドストック、またはヘッドと呼ばれるエレキギターの先端でペグ(糸巻き)のある部分。このデザインは、形はもちろん、弦のテンション(張り)や全体の重量バランスにも影響する重要なパーツです。
エレキギターの定番「フェンダー(Fender)」とは?
■歴史と代表モデルフェンダーは1947年、電気技術者レオ・フェンダーによってアメリカ・カリフォルニア州で誕生したメーカー。フェンダーは、世界初の量産型のソリッドボディ・エレキギターとされる「テレキャスター(当初はブロードキャスターという商品名)」を1950年に発売し、1954年に3つのシングルコイルピックアップ、トレモロアームユニット(ブリッジ部分にあるレバー状の部分:音をビブラートさせる)を搭載した「ストラトキャスター」を発売します。
フェンダーが考案したソリッドウッドボディとネックとを別々に作り、木ねじで取り付ける方式(ボルトオン・ネック)は画期的な構造で、効率的に製造や修理を行うことができるようになりました。 エレキギター以外に低音を出すエレキベース(エレクトリック・ベースギター)があります。これもレオ・フェンダーが開発した楽器で、1951年に「プレシジョン・ベース」という商品名で発売されます。エレキベースはコントラバス(ウッドベース)と同じ音域の低音を奏でることができます。
ギブソンも、1953年に「EB-1」、1961年に「SGベース」を発売。他メーカーからもさまざまなタイプのエレキベースが発売されて現在に至ります。
100年超の老舗ブランド「ギブソン(Gibson)」とは?
■歴史と代表モデルフェンダーは1940年代末期にソリッドウッドのエレキギターを流通に乗せることに成功した、当時のいわばベンチャー企業。
一方の雄であるギブソンの歴史は古く、1894年にアメリカ・ミシガン州でオーヴィル・ヘンリー・ギブソンが創業した楽器製造の会社です。しかし初期のメインはマンドリン製作でした。ギブソンがソリッドボディのエレキギター「レス・ポール・モデル」を発表するのは、フェンダーとほぼ同時期の1952年。ギタリストのレス・ポールとの共同開発で誕生しました。
このレス・ポールはソリッドボディながら、表面はアコースティック楽器のような曲面を持つアーチド・トップのデザイン。これはギブソンがマンドリンやアコースティックギターの製造で培った「楽器らしさ」にこだわっていたからかもしれませんね。
初心者に優しい「スクワイア」「エピフォン」
比較的安価なセカンドブランドも狙い目。2017年に「99ドルギター」として発売されたギブソン傘下のブランド「エピフォン」レスポールSL(上)、フェンダーの廉価ブランド「スクワイア」のストラトキャスター(下)
フェンダーやギブソンのブランドロゴを冠したエレキギターは高額な楽器ですが、両メーカーとも傘下のブランドで廉価版を出しています。
スクワイア(SQUIER)はフェンダーが展開する比較的安価なブランド。現行ではテレキャスター、ストラトキャスターはもちろん、ジャガー、ムスタング、ジャズベース……など、フェンダーの有名モデルをほぼ網羅しています。
エピフォン(Epiphone)は現在、ギブソン傘下のブランド名。レスポールを始め、SGモデル、フライングV、ES-335……など、ギブソンの人気モデルを初心者でも購入しやすい価格で展開しています。
世界的に人気の日本メーカー「ヤマハ」「アイバニーズ」など
■日本の有名メーカーアメリカで誕生したエレキギターですが、日本のメーカーも多数あり、その作りの良さから世界で人気です。
ブランド名だけでも、1950年代からエレキギターを製造しているテスコやグヤトーンに始まり、ヤマハ、アリア、アイバニーズ、フェルナンデス、グレコ、トーカイなど……、たくさんあります。最初はフェンダーやギブソンのコピーモデルや、奇抜なデザインのギター(ビザール・ギター)で人気を博しました。その後は本家を凌ぐほどの技術力でさまざまなデザインのオリジナルモデルも作られています。
コミック版『ぼっち・ざ・ろっく!』。表紙からギブソン・レスポール・カスタム、ダブルカッタウェイのレスポール・ジュニア、フェンダー・プレシジョンベース、などが確認できる。右の3巻では主人公の後藤ひとりがヤマハ・パシフィカを使用していることがわかる
まとめ
今回は紹介できませんでしたが、フェンダー、ギブソンの他にグレッチ(1883年創業)、リッケンバッカー(1931年創業)など、歴史あるギターメーカーが複数あります。比較的新しい1985年創業のポール・リード・スミス(PRS)も調査によってはフェンダー、ギブソンに次ぐシェアを誇ります。こうしたいろいろなギターは見るだけでも楽しいので近くの楽器店に足を運んでみることをオススメします。
エレキギターを始めるきっかけはいろいろ。サークルで軽音部に入った、好きな音楽を弾いてみたい、むかし挫折したけれど、また挑戦したいなどなど……。近年はお手頃な価格の楽器も増えましたし、動画サイトで演奏方法を学ぶことも可能です。小さなアンプとヘッドホンがあればアコギより周囲に響く音も小さいので、日本の住宅事情に向いているとも言えます。形や色のデザインが好き、お気に入りのミュージシャンが使っている、などの理由もアリ。ぜひお気に入りのエレキギターを見つけて気軽に音楽を楽しんでみてください。