義母のびっくりするような一言
近所とはいえ別居だから、義母との距離感は変わらなかった。だが、長男は放課後、祖父母宅へ行くことが増え、当然、サエさんも足を運ぶようになっていった。「それでも義母は『面倒なときはうちで夕食をとっていいからね』と言うだけで、無理に引き止めたりはしなかった。私もなるべく夕飯は家族4人でと思っていたので、帰宅して作るようにしていました。義母は何か1品、持たせてくれる。それがうれしかったですね」
そうやってうまく暮らしてきたのだが、数カ月前のことだ。サエさんの2歳違いの妹が再婚することになった。妹は若いころ一度離婚しており、その後は独身で生きていくと公言していた。ところが3年前に高校時代の友人と再会し、バツイチ同士で静かに愛を育んできたという。
「落ち着いたいいカップルなんですよ。ふたりとも前の結婚でも子どもがいないし、今も子どもを望んではいないみたい。子どもがいなくても、ふたりでいいパートナーシップを築いていく結婚という形もあるんだなと私は思っていました。義母も私の妹には会ったことがあるので、そんな話をしたんです。すると義母は『あら、よかったわねえ』としみじみ言ってくれた。
喜んでくれたんだなと思ったら、『相手の方は何してるの?』と。心配してくれていると感じました。相手はたまたま大手企業に勤めているので社名を言ったら、『すごい』って。『そんないい方にもらっていただけるなんて、あなた、感謝しなくちゃね』と言ったんです。もらって? 感謝? 私の頭にクエスチョンマークが踊りました」
妹の「学歴だってねえ…」
義母は「だってあなたの妹、離婚してるんでしょ。それにお年もお年でしょう。学歴だってねえ……」と言いたい放題。まったく悪気がないのはわかっていたが、サエさんはだんだん頭に血が上っていった。「夫は超有名国立大学卒なんですよ。義母が密かにそれを自慢しているのは知っていました。私はまだ名前が知れた大学だったんですが、妹は確かに有名大卒ではない。だけどバツイチ40代で無名大卒だって、彼女はきちんと仕事をして自立しています。義母にとやかく言われる筋合いはない。妹の結婚相手だって、“もらってやる”つもりではないと思うし。ジェネレーションギャップなのか、私が考えすぎなのかと思ったけど、やはりどうしても聞き捨てならなかったんです」
サエさんは、その通りのことを義母に言った。「ふたりの気が合って結婚という形を選択したのであって、妹は彼に“もらって”もらうわけじゃないと思いますけど」とやんわりと言った。
「あら、だって彼ならもっと若くてきれいな人をもらえるでしょう」という義母の言葉に、ついにサエさんはキレた。
「結婚することを“もらう”というの、やめてもらえませんか。私もあなたの息子さんに“もらわれた”んですかねと言い捨てて、子どもたちを連れて帰宅しました。息子たちがもし結婚する日が来たとして、“嫁をもらう”なんて言ったら、私はその彼女に会って謝りたい気分になると思う」
一気に息子の結婚にまで話が飛ぶが、そういう話が伝わっていくのは確かに怖い。義母はまだ70代だし、少し気働きの効く人なら、もうそういう言い方をしはいほうがいいと思ってもいいはずだが……。
「私がぷんぷん怒っていたので、それを聞いた夫が義母に注意してくれたみたいですが、やはり『そんな言葉尻をつかまえて怒るなんて、サエさん、疲れてるんじゃない?』と言ったとか。いい人だけどわかってはもらえない。この先が不安になってきました」
サエさんは、こういうことに関しては絶対に折れないと決めている。そうでなければ成長していく子どもたちに責任がとれない、些細なことではないと子どもたちにも知らせていきたいとまじめな顔で言った。