ジーンズを強要すれば「娘を守れる」のか
うちの夫も「家族を守る」という言葉を口にすることがあるとマユミさん(46歳)は言う。高校生になった長女が休日、出かけるときはやたらと洋服をチェックするようにもなった。「性犯罪が叫ばれているので、私も心配ではあるけど、娘には自由に生きてもらいたい気持ちもある。夫が服装についてあれこれ言うのはわかるんですが、私はむしろ、誰とどこへ行って何をするのかを尋ねます。娘は絵画が好きで、高校でも美術部に入っているので、だいたいは美術展や画廊巡りなどを同じ志の友人としている。その程度なら多少スカートが短くてもいいと思うんです。夕方までには帰ってきますし」
ところが夫はジーンズをはけとうるさい。娘はジーンズが好きではないのに。ジーンズをはかないなら出かけるのは許さないと夫は言う。
高校生の娘は泣き出してしまい……
「娘が泣き出してしまったので、私は行っていいと言いました。夫は私に『オレは家族を守りたい。娘を被害者にしたくない』って。気持ちはわかるけど、娘のことを尊重したいと私は言いました。すると夫はおまえに娘が守れるのか、と。だったらジーンズさえはいていれば被害に遭わないと言い切れるのかと私も言い返しました」このままだと夫は娘を束縛し、支配する。娘はどんどん夫を嫌うようになる。マユミさんは夫に娘の気持ちや美術に対する情熱を語ってきかせたが、夫は「娘を守る」の一辺倒。だったら会社を辞めて娘に張り付くしかないわねと彼女は夫に盾突いた。
「心配でたまらないというならまだわかるんですよ。でも夫はひたすら、自分には娘を守る義務がある、と。そういう気持ちが支配につながるんだと言ってもわからない。だからといって娘の心のうちを深く知ろうとはしない。矛盾だらけなんです。娘が本当にかわいいなら信頼することも必要だと思うんですけどね」
10代の子をもつ親なら誰でも心配はするだろう。だが夫の「守る」はどこか観点が違うし、それが本当の愛情なのかと疑いすら抱いてしまうとマユミさんはつぶやいた。