世界のあらゆる次元をネコにしたいという野望
+d「ネゴ」8800円(税込)。パッケージを開けると、中にはネコたちがかわいく収まっている。ボードはアクリル製、駒は石膏製。ボードのサイズは約W170×D170×H3mm、駒は、約W20~40×D20~40×H30~40mm
そういう野望の元で作られた「ネゴ」で遊んでみると、確かに頭の中も盤上もネコだらけになる、そんなゲームでした。
ゲームの進行につれてネコでぎゅうぎゅうになっていく
盤と駒は、こういうデザイン。アクリル製の盤も質感が良く、駒を置くとパチリと良い音がする。なお、実際のゲームは、お互いにボスネコ(写真、白の駒がボスネコです)を置くところから始まるので、写真のような状況にはなりません
「私は、元々ボードゲームが大好きで、中でもドイツの『タロ』や、ニュージーランドの『カテドラル』のような、プレイしながら盤上が美しい形になるものが好きなんです。ですから、ネコをたくさん登場させるのは大前提として、その上で、盤上が美しくなる、そういうルールでなければいけないなと思って、開発を進めました」と森井さん。 「ネゴ」で遊べば分かるのですが、ゲームの特性上、終了時の盤上はネコがぎゅうぎゅう詰めになります。ネコの少しムチっとした感じも見事に造形化されている駒が、ほんとうにミッチリと詰まっている様が、とてもかわいいのです。そのおかげで、どちらが勝っても負けても、あまりギスギスしないのも、このゲームの不思議な楽しさ。
といっても、なかなかシビアなルールもあって、ゲーム中はかなり頭を使いますし、駒が少ないせいもあって、一手一手、指すたびに緊張感が走ります。
シンプルな陣取りゲーム+ネコの習性で奥が深いゲームに
ゲーム自体はシンプルです。お互い交互にネコの駒を盤上に置いて、ネコで囲った部分は自分の陣地になります。陣地の中には、相手は入れませんから、ゲームが進むと、駒を置ける場所は限られていきます。そうして、駒を置く場所がなくなったときに、ボード上に占めるネコの面積(マス目の数)が多い方が勝ちとなります。ただ、そこに、ネコの習性を取り込んだルールが加わります。「最初は、もう少し陣取りゲーム寄りで考えていたのですが、スタッフから実際のネコの習性をルールに取り入れたらどうかという意見が出ました。私もスタッフもネコを飼っていましたから、『目が合うとケンカするよね』とか、『間にさえぎるものがあっても気配を感じてる気がする』とか、そういうところから、ルールを考えていきました」と森井さん。 例えば、ネコの習性を取り入れたルールとは、敵味方関係なく「目が合う状態になるような駒の置き方をしてはいけない」というもの。このルールにはさらに「途中に他の駒があってもネコは気配で察知する」という条件も加えられています。他にも、「ボスネコは恐れ多いので身体を見てもいけない」や、「ネコは常に状況を気にしているので、盤の端で外側を見るように置いてはいけない」といった感じです。
中でも、「目を合わせてはいけない」というルールは、ゲームの終盤、駒を置ける場所が限られてくると、とても効いてきます。相手の持ち駒を見て、顔が向いている方向に合わせて、こちらの駒を配置するといった戦法も生まれます。ネコをかたどった駒には顔の向きがあるので、これらのルールは思わぬところで制約になるのです。その思い通りにいかない感じもネコっぽいのです。
さまざまなフォルムの駒を使いこなして陣地を広げろ
駒は四角く4マスを占有する「ボスネコ」と一列に4マスを使う「ノビネコ」、くの字に曲がった「クノジネコ」、ネコカップ風の「コウバコネコ」、コネコカップ風の「マメネコ」の5種類。ただ、「クノジネコ」は曲がる方向が違うもの、顔の向きが違うものがあって、使い分けが勝敗に直結するくらい重要になったりします。また、まっすぐに盤面を横断する「ノビネコ」は、とても便利な駒なのですが、その大きさと、顔が端ではなく3マス目にあるという特殊な造形ゆえに、使い所を間違うと置き場がなくなってしまうというような目にも遭います。
「ルールについては、かなり頑張りました。先手後手で有利不利がないかということや、駒の数や種類のバリエーションなどは、時間をかけて検証しています。ネコの顔の向きも、紙を切って顔の向きを描いたものを駒代わりにして、何回もテストしては、また紙を切って逆向きに顔を描き、ということを繰り返しました。そうやって、さまざまなルールを足したり引いたりして今の形にたどりついた感じです」と森井さん。東大の大学院の数学科にいる友人にも検証をお願いして、ルールの甘い部分をチェックしてもらったりもしたそうです。
手作業で仕上げられた石膏製のネコたちのかわいさ
「ネゴ」の魅力は、ゲーム性だけではありません。何より、駒のネコたちの造形のかわいらしさやネコらしさと、ゲームの駒然としたたたずまいの絶妙なバランスが素晴らしいのです。森井さんは立体造形作家なので、そのあたりは本職なのですが、その森井さんの造形を石膏で再現している点が、このゲームを特別なものにしています。「駒だけ単独に見てもオブジェクトとして美しいものにしようというのは最初からありました。あとネコのバリエーションがいっぱいで見ているだけで幸せになるゲームにしたいということも考えていました。だから、素材についても、石みたいな質感だといいなとは思っていたんです。でも、石で作るのは難しいので、囲碁で盤上に石を置くときの『パチリ』と音がするのがいいんです、といったイメージだけお伝えして、あとは、ものづくりのプロ中のプロである、アッシュコンセプトさんにお任せしました。そうしたら、石膏で出来上がってきて、それは想像もしていなかったのでビックリしました。願ったり叶ったりでした」と森井さん。 駒が石膏で出来ているということが、このゲームの大きな魅力になっています。森井さんが言うように、盤に置くときのパチリという音や、持ったときの重み、少しひんやりした手触り、それでいてネコの柔らかさを表現した曲線など、ゲームを「体験」として楽しめるのは、駒の造形と素材感があってこそ。
駒を製作しているのは珪藻土のバスマットなどで有名なsoil。老舗の左官会社ならではの石膏を使った型物を作る技術が遺憾なく発揮されています。森井さんが作った原型のイメージそのままに、手作業で仕上げられたネコたちは、駒単体でも売ってほしいと思ってしまうほどの出来です。
開発者の森井さんやスタッフも、未だ必勝法や定石的なものを見つけられていないという、シンプルでかわいいのに、なかなか頭も使うし、発見も多い「ネゴ」。とはいえ、じっくり考えながら遊んでも、1ゲーム25分程度と手軽に遊べるのもうれしいところです。
盤の狭さが後半、置く場所探しに困る大きな制約になるのに、その狭さが、最後のネコぎゅうぎゅうの面白さにつながっている、そのゲーム性とかわいさの卑怯なまでの表裏一体感は、なんて見事なんだろうと思うのです。
「かわいければすべて良し、ということですね」と森井さんは笑うのでした。