父が心配な42歳
一方で、3年前に母を失った父を心配しているのはアキコさん(42歳)だ。実家までは2時間かかるため、そう頻繁に訪れることもできない。「私はひとりっ子なので、父にこっちに来ないかと打診したこともあるんです。家が狭いから同居はできなくても、近所にマンションでも借りて住んでもらえば毎日、見に行けるし。でも父は、生まれ育った場所から離れたくないと。『おまえにも家庭があるのだから心配はいらない』と言っていたけど、一時期はまったく外に出ることもなく、友人が心配して訪ねると、家の中でひとりでぼうっとしていたとか。今は少し外に出ることもあるようですが、離れていると日常的にどう過ごしているのかがわからないから心配です」
母が亡くなった当初、父はほとんど食事もとれなくなり、体力が著しく衰えて入退院を繰り返した。コロナ禍もあって見舞いにもいけず、アキコさんは心を痛めていたという。
「昨年からようやく地域包括センターとつながって、デイサービスなども受けられるようにはなりました。まだ70代なんですが、すっかり弱ってしまって……」
仏壇の前で長い時間を過ごす父
近所の人などに聞くと、今も父は母の仏壇の前で長い時間を過ごしているようだ。父は母に何を話しかけているのだろうと考えるとせつなくなるとアキコさんは言う。「母に頼りきりの人生でしたからね。仕事を辞めてからは、お母さんお母さんって母のあとを追っていたようなところがあって、母はよく『あんたのところに遊びに行きたいけど、お父さんを置いていけないから』と言っていた。共依存みたいになっているのではないかと思ったこともありましたが、お互いに相手を必要としていたんでしょう。それはそれで幸せだったんだろうけど、母亡き後の父の様子を見ていると、パートナーに先立たれてもしっかり生きていかないと子どもに心配させるだけだと思いますね」
その点、うちの夫は大丈夫だとアキコさんは笑った。家事もできるし、ひとり遊びもできるから、と。
「やっぱり夫婦は多少の距離感があったほうがいい。もちろん相手を失えば喪失感は強いと思うけど、自分だけの趣味や楽しみをもっていれば、いつかは立ち直れるはずだから。父には、何か楽しみを見つけてほしい」
最近、ようやくスマホを扱えるようになった父に、今は子どもたちの顔を見せて元気づけているという。