脳科学・脳の健康

Q. 「悪夢を見るのは脳の病気が原因」って本当ですか?

【脳科学者が解説】脳の病気など、脳のはたらきに異常がある場合、症状の一つとして悪夢を見ることがあります。しかし実際には、多くの悪夢は心配のないものです。よくある悪夢と、病院受診を考えるべき目安について、解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

Q. 怖い夢を見るのは、脳に何か異常があるせいなのでしょうか?

怖い夢・悪夢を見てしまう

怖い夢、嫌な夢を見てしまうのは、脳の異常が原因なのでしょうか?


何かに追いかけられたり、大事なシーンで失敗をしたり……。怖い夢や縁起の悪い悪夢を見ることは誰にでもあることですが、あまりに続く場合は心配になるかもしれません。実際に脳の病気による悪夢はあるのか、心配ない悪夢はどのようなものか、わかりやすく解説します。

 Q. 「最近、よく怖い夢を見ます。『脳の病気で、悪夢を見ることがある』と聞いて、ますます心配です。悪夢が続くのは、何か脳に異常があるせいなのでしょうか?」
 

A. 怖い夢の多くは、心配ないものです。しかし脳の病気による悪夢もあります 

怖い夢や縁起の悪い夢などの「悪夢」の多くは、頭の中にある、現実の生活上の不安や危機感を反映していることが多いです。「何かに追いかけられる」「落ちる」「罠(わな)にはまる」「ケガをする」「大事なイベントを忘れてしまう」など、リアルで良くない夢は、多くの人が見たことがあると思います。

筆者自身も子どもの頃は、誰かに追いかけられているのに逃げられず、最後はどこかにストンと落ちて目覚めるというパターンの夢をよく見ましたが、成長とともに、この手の夢はまったく見なくなりました。おそらく幼いときはどうしたらいいのか分からないことだらけで、心の中にたくさんの不安や恐怖があったのでしょうが、ある程度の人生経験を重ねる中で自信がついてきたことで、漠然とした不安が減ったためだと思われます。その代わり、高校3年生のときには大学入試の日に寝坊して試験を受けられくなる夢をよく見ましたし、大学生のときには卒業間際になって取得単位が不足していることが発覚して卒業できなくなる夢を何度も見ました。教員になってからはやはり寝坊をして担当講義をすっぽかしてしまう夢などを見るようになりました。現実生活でのイベントと連動したかなりリアルな悪夢ばかりでしたが、それぞれのステップで無事イベントを乗り切った後は、そういった夢は見なくなりました。

日常生活で感じている具体的な不安やストレスを反映した悪夢であれば、現実の生活における問題を整理して、それを乗り越えて解決すれば見なくなりますから、気にする必要はありません。

ただし、悪夢の中でも「人に殺される」といった、生命が脅かされるような、きわめて恐ろしい夢の場合は、恐怖のあまり大声をあげて飛び起きてしまう方もいらっしゃいます。その夜の眠りが妨げられるだけでなく、目覚めた後もその夢の内容がはっきりと記憶されており、日中の精神不安定や睡眠障害の引き金になることもあります。生活の中でとくに思い当たるふしがないのに、こうした悪夢がずっと繰り返されるようであれば、脳のはたらきに異常が生じている可能性もあります。脳の中でも、記憶や情動をコントロールしている側頭葉や大脳辺縁系に異常があると、悪夢を見やすくなることも知られています。日常生活に支障が出るような悪夢が続く場合は、「睡眠障害外来」などがある専門の医療機関を受診されることをお勧めします。
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