私の仕事を認めない夫
エンタメ系の企画を仕事にしているマチコさん(43歳)は、仕事で出張することも多い。夫は堅い企業のサラリーマンだが、結婚するときは「夢のある仕事をしているきみが好きだ」と言ってくれていた。結婚して12年、11歳の娘がいるが、彼女の母親と同居しているため、彼女は仕事を続けることができている。「夫は時間がない、自分だって忙しいと言ってあまり家庭を顧みない。だけど私が出張して疲れて帰ってくると、『疲れてるみたいだね』と言うんです。ねぎらってくれているのかと思ったら『遊んでくれば疲れるのも当然だよ』って。私は出張しているんですよ、遊んでいるわけじゃない。だけど『どうせ遊びみたいな仕事じゃないか』と。エンタメ系ですからね、できあがったものはみんなを楽しませるためのものです。だけど私たちはそれを必死で作っている。それが仕事というものでしょう。なのに夫は私が遊んでいると言いたがる」
セミナーに行ったときも、「遊びにセミナがー必要なのか」と言い放った。自分の仕事は大事なものだと言いながら、妻の仕事やその思いに敬意を抱こうとしない夫の気持ちが、マチコさんにはどうしても理解できない。
「仕事の話はしないようにしていますが、たまたま電話がかかってきて、その内容の一部が夫に聞こえてしまうこともあります。すると夫はすごく嫌な顔をして『家に仕事を持ち込まないでほしいね』と言う。コロナ禍の余韻をひきずっているから、リモートワークも多くなっている今、そんなことを要求されても困る」
イラッ! 夫による「ごく普通の妻で母」の定義
あなたは私に何を求めているのかと、マチコさんは夫に聞いたことがある。すると夫はしれっと言った。「ごく普通の妻で母」と。ごく普通のというのはどういうことかと言ったら、「自分を犠牲にして家族のために尽くすことじゃないの?」とつぶやいた。「夫にとって妻はそういう存在なんですね。楽しそうに仕事をしているきみが好きだと言ったあの頃はどこへ行ってしまったんだろう。私がそうつぶやくと『人間は変わるからね。君はまったく変わらずにわがままを通そうとしているんだろうけど』って。痛烈な嫌味ですよね」
マチコさんの母親も、彼の穏やかそうな顔の下に隠れた横暴さを感じ取っている。あの人は嫌なヤツだねと言ったこともあった。
「独身時代は決して嫌なヤツではなかったのに。このまま私の仕事や私の存在を軽視するなら、こっちにも考えがある。揉めたくはないけど、いずれ対決しなければいけないような気がしています」
覚悟を決めるのは、娘が中学に入るタイミングになるだろうと彼女はきりりとした顔つきで言った。