高校受験

宿題を廃止して「家庭学習」にする学校が増えているが… ただの“親に丸投げ”で成績に問題発生

だれもが悩まされ、苦労したことがある「学校の宿題」。最近になって、宿題がなくなったり減ったりする学校が増えている一方で、成績に思いも寄らぬ影響があることも……。実際のところ宿題による学習効果はあるのか、2つの中学校を例に考えてみました。

伊藤 敏雄

執筆者:伊藤 敏雄

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宿題を廃止して「家庭学習」にする学校が増えているが……

宿題を廃止して「家庭学習」にする学校が増えているが……

最近、学校の宿題を廃止したり、大幅に減らしたりといったニュースをテレビや新聞でよく見かけます。

ところがくわしく見てみると、みんなが同じ課題に取り組む「一律の宿題」をやめたり、宿題の呼び名を「自主学習」や「家庭学習」へと変えたりしていて、単純になくなったというわけではないようです。

今回は、宿題の是非について、2つの中学校を取り上げて考えてみたいと思います。 
 

麹町中学校は特殊だった? 宿題廃止後も、即勉強しない子が増えなかった

かつて、東京都千代田区の麹町中学校が宿題を廃止して、注目を浴びたことがありました。これには賛否両論あったようですが、背景にはいろいろと事情があるようです。

例えば、千代田区という立地は通塾する子が多く、塾の勉強で手一杯という子が少なくなかったことです。

また、麹町中学校は、年に数回まとめて行う定期テストを単元ごとのテストへ切り替えています。そのため、必然的にまめに勉強しなければいけなくなり、宿題を廃止したからといって、それが「即勉強しない子が増える」という結果にはつながらなかったのかもしれません。
 
また、そもそも論として、宿題がノートを埋めるなどただの“作業と化している”ことも問題視されていました。宿題は学習内容の理解を促すための手段の一つですが、「毎日やること」、そして「提出すること」が目的にすり替わっていたのです。
 

学力テストの点数がガタ落ち……宿題廃止により低迷するA中学校

一方で、成績が低迷している中学校もあるようです。宿題を廃止して家庭学習へ切り替えたことがローカルテレビで取り上げられた、筆者の地元にあるA中学校です。地区統一の学力テストで、A中学校の宿題を廃止した学年(当時1年生)の平均点だけが、他の中学校と比べて極端に低かったという結果が出ています。

それも5教科の合計で30点以上も低く、教科によっては10点以上の開きがありました。国語の平均点は他の中学校と同じくらいなのに、それ以外の教科が著しく低いということもわかりました。

また、各教科の得点分布を見てみると、他の中学校は70~80点台に分布の山があるのに対して、A中学校だけが50点台に山がある教科がいくつかありました。つまりA中学校だけ、成績中上位層が目に見えて少なかったのです。
 
平均点が10点低いというと、みんなが10点ずつ低かったと思うかもしれませんが、約半数が20点ずつ下げても10点下がります。実際、A中学校で起こったことは、まさに後者のケースでした。90点くらい取れるはずの子が70点、80点くらい取れるはずの子が60点しかとれていなかったのです。
 
ここで、宿題の廃止により学力中上位層がこぞって勉強しなくなったのではないか、という仮説が頭に浮かびます。実際、英語や数学、理科、社会といった教科は、問題の演習量が点数に結びつきやすいですが、国語は日々の勉強がすぐにテストの点数に結びつくことは少ない教科です。そう考えると、国語の点数にはほとんど差がないのに、数学や英語などの教科で著しく開きがあったのも納得です。
 

「家庭学習」は単なる“家庭に丸投げ”状態だった

実は、A中学校で行われていた、「自分で計画を立てて、自分で勉強しましょう」という家庭学習は、単なる“家庭に丸投げ”状態でした。

中学1年生といえば、ただでさえ小学校と勝手がちがうことが多いため、どんな勉強をどんなふうに進めたらよいかわからない子がほとんどです。そんななか、いきなり自分で計画を立てて勉強しましょうというのは、さすがに無理があります。しかも、せっかく自主的に問題集をやっても、ちゃんとできたかどうかを学校でチェックしてもらうことも、先生からフィードバックをもらうこともありませんでした。その結果、次第にいい加減になったり、やらなくなったりした生徒が増えていったのではないでしょうか。
 
筆者が経営する塾の当時A中学校の1年生だった教え子に実際のところを聞いてみたら、「どんな勉強をどれくらいのペースでやったらよいかわからないまま、1年生が終わった」と言っていました。
 
たしかに、内容や量が一律に決められている宿題には多くの問題があります。しかし、だからといって、急に内容も量も「自分で考えて、自分でやりましょう」とするのも極端すぎます。ある程度、学校がやり方やペースを指示してから、徐々に家庭学習へ移行するなどソフトランディングが必要だったのではないでしょうか。
 

 宿題の効果はあるのか、ないのか?

ここまで、麹町中学校とA中学校の2つのケースを紹介してきましたが、結局のところ、宿題には効果があるのでしょうか。

宿題に関するこれまでの研究で、その効果については次のようなことがわかっています。
  • 宿題を出す量と成績には有意な関係はない
  • 実際に宿題に取り組む量と成績には有意な関係がある
  • 高学年になるほど成績にプラスに働くが、低学年は逆にマイナスになることもある
学校がたくさん宿題を出しても、子どもがそれをただこなすだけなら効果は期待できませんし、逆に、内容や量が適切で子どもが十分に取り組めるものだった場合は、成績向上につながるようです。また、小学生のような低年齢層には宿題の効果はあまり期待できず、中学校や高校など校種や学年が上がるにつれて効果が期待できるということがわかっています。

つまり、宿題はやり方次第で効果が期待できるのです(少し前に「宿題は効果なし」という記事が話題になったことがありましたが、一部の解釈だけが取り上げられた、いわば誤報でした)。
 
もちろん、宿題にはデメリットがあることもたしかです。「ただ回数をこなせばいい」といった誤った学習観や、「答えを丸写しする」といった誤った学習法を植えつけかねないこと、そして、ワーク(問題集などの副教材)を埋めることや良い評価を得るためなど目的がすり替わってしまうことです。
 
しかし裏を返せば、本来の目的にそって宿題をやること、つまり「目的思考」にそって行えば、適切な効果が得られるということでもあります。
 

研究からわかった効果のある宿題とは?

効果のある宿題の最大のポイントは、「目的思考」のひと言につきます。宿題のねらいは、勉強した内容を復習したり、弱点を補ったりすることだからです。
 
<目的思考にそった宿題のポイント>
  • 学力レベルにあった内容
  • 負担にならない量
  • 適切なフィードバックがある
  • 学びにつながるやり方
例えば、漢字学習や計算練習などで、ドリル学習が必要な子もいればそうでない子もいます。定期テストで高得点をとれる子には、このようなドリル学習は不向きです。しかし、基礎的な内容理解が不十分な子には、有効なやり方です。
 
また、宿題は少なすぎても効果はないですし、多すぎても負担になるだけです。部活動や塾、習い事などがある子にとっては、毎日あると負担が大きすぎる可能性があります。毎日ではなく、提出日が何日かおきにあるなど柔軟さも必要です。
 
そして、適切なフィードバックも大切です。例えば、漢字の間違いや英単語のスペルミスなどがないかなどです。特に中学1年生は、漢字や英単語を間違ったまま覚えてしまうことが多く、答え合わせや間違い直しができない子も少なくありません。中には、何ページも答え合わせをしていなかったり、極端な例では、間違っているのに丸をつけていたりする子もいます。
 
数学では、途中の計算式や考え方を書いていない子も少なくありません。勉強は、どれだけやったかという「量」よりも、どのようにやっているかという「質」が大切なことからも、教師や親による定期的なチェックや適切なフィードバックは必要不可欠です。
 
また、ただ問題集に取り組むだけでなく、間違えた問題やわからないことがあったときに、解き直しをしたり調べたりするなど、学びにつながるやり方であるかどうかも重要です。
 
つまりここまで解説してきたように、問題なのは宿題の“有無”よりも“取り組み方”にあるのです。「家庭学習」や「自主学習」へと名前を変えようとも、大切なのは「何のためにやるのか」という宿題のねらいと、それを達成するための手だてが適切かどうかという「目的思考」にあります。

勉強のやり方に関しては、関連書籍はもちろん、ネット上にも数え切れないほど情報があります。これらを参考に、家庭で自主的に勉強する場合はもちろん、学校の宿題でも、ねらいにそったやり方かどうか考えながら取り組むようにしましょう。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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