夫が出て行って
しばらくたって夫が「オレが出張に行くと楽になる?」と聞いてきたことがあった。「『そんなことないよ』と言ったんですが、夫は『正直に言ってほしい』と。『ごめんね。正直言うとそう。あなたがいると子どもがふたりいるようなものだから』と言いました。本人は家事をしているつもりでも、すべてが中途半端だから後始末は私がしなくてはいけない。『お皿を洗っておいたよ』とは言うけど、シンクの排水口のごみ受けはきれいにしてない。洗濯機は回したままで干さないし。そういうのが地味にストレスになるんですよね。彼が動くと、ああ、後始末しなくちゃと思うから」
わがままだと言われるかもしれないけど、とにかくすべてに疲れてしまったと彼女は言う。夫は彼女の関心が自分にはないと判断したのだろう。荷物をまとめて出て行き、ふたりは娘が小学校に上がったのを機に離婚した。それが昨年春のことだ。
「夫は近くに住んでいます。入学式の日の夜は、娘と3人で食事をしました。それ以降、毎週のように3人で会っています。娘と夫がふたりで出かけることもある」
いちばん変わったのはリサさんの気持ちだ。
「夫から言われました。口調や使う言葉、言い方が変わったと。フランクになったし、けんか腰にならなくなったって。自分でも気づかないうちに『いい妻、いい嫁になろう』と力が入っていたのかもしれません。自分でも不思議なんだけど、今は夫に何でも言えるんですよ。結婚しているときに言えばよかったと思う。でもあのころは言えなかった。ひとりでがんばってひとりで怒ってたような気がします」
今は元夫だから、なにも期待していないのも、いい関係につながっているのかもしれない。気持ちとしては友だちであり、娘にとっては父と母。この関係がいいのだという。
「私と元夫との関係って、友だちで終わるべきだったのかなと思うことがあります。夫婦になるとうまくいかない。でも友だちならベストなんですよ。今は結婚前みたいに話がポンポン弾む。娘は『パパとママはどうして一緒に暮らさないの?』と言うんです。『一緒に暮らすとうまくいかない、でも近くに住んでいるとうまくいくの』って言ったら、ふうんって」
どちらかが再婚するとか新たに恋人ができたとか、環境が変わったらどうなるのだろう。リサさんは、自分は当分、恋愛もするつもりはないときっぱり言った。
「元夫が再婚するなら、この状況をわかってくれる相手だといいなと思います。でもむずかしいですよね。少なくとも、元夫は娘とは交流をもってくれると信じたいですけど」
近所に住む「新たな家族の形」があってもいいのかもしれない。