10日目に連絡があって
最初の2、3日は「夫に対してムカついていたこともあって、ひとりで伸び伸びできるわと思っていた」彼女だが、さらに日にちがたつと夫の笑顔ばかりが脳裏に浮かんだ。「ふたりで旅行したときのことをよく思い出していました。部屋に露天風呂がついている温泉に行ったとき、夫が足をすべらせて湯船に頭から突っ込んだことも思い出して、ひとりで笑ったりして……。でもひとりで笑うのってつまらないんですよ。テレビを見ても、ああ、夫はこの番組好きだったなあと思ったり」
夫の嫌なところを思い出そうともした。だが子どもの件以外で、夫と揉めたことがないのに気づいたという。問題は徐々に絞られていった。
「子どものこと以外にもいろいろ言葉にした気がするんですが、結局、今すぐ不妊治療したい私と、もう少し様子を見たい夫。それだけの違いなんだとわかったんです。あなたはいつも問題を先送りにするって私は怒っていたんですが、問題って何だと考えたら、別になかった、というオチで……」
恥ずかしそうにマミさんは笑った。1週間が過ぎたが夫から連絡はない。自分から連絡しようと思ったのが10日目。電話を手にしたところで、その電話が鳴った。
「すぐに出たら、夫のほうが驚いて。『鳴った?』と笑っていました。素直に問題点だと思うところを言ったら、『オレもそう思ってた。不妊治療を今するか様子を見るか。それだけだよね』って。『確かに早いほうがいいけど、ここで半年くらい様子をみないか』と具体的に言ってくれたので、じゃあ、そうしようと。半年という期間に別に根拠はないんだけど、今は病院に行きづらい時期だからという彼の意見を尊重しました」
彼はすぐに帰ってきて、マミさんを抱きしめ「寂しかったよ」と言った。私も、とマミさんは言った。
「10日間の別居でしたが、お互いに相手が大事だと再認識した日々でもありました。そして不思議なことに、不妊治療を始める前に妊娠したんです」
元気に産まれた娘は、1歳半になる。立ち会いもできず、ひとりで出産したが、それもいつかはいい思い出になるかもしれないとマミさんは微笑んだ。
「夫は娘にメロメロです。甘やかしすぎるだろうから、今度はそれがケンカの種になりそうですけど、当分、別居するつもりはありません」
“10日間の別居”は、今もふたりの戒めの合い言葉のようになっている。もうあの日々は繰り返したくないとふたりとも考えているからだ。