「お父さんがかわいそう」と思った
繁華街で男性と歩く母を見かけて追いかけた
高校生のときチヒロさん(33歳)は、友だちと遊びに行った繁華街で母が見知らぬ男性と腕を組んで歩いているのを見た。友だちに「ごめん、急用がある」と言い残して母を追った。ホテルへ入っていった母と男性の姿を確認したチヒロさんは、膝ががくがく震えるのを感じたという。
「母はお嬢なんですよ。父にはわがままばかり言ってたし、子どもの私にも頼ってばかりいた。父も私も弟も、そんな母をしょうがないなあと言いながらフォローする。うちの家族はそういう力関係で成り立っていたんです」
母は仕事では、有能なやり手だったようだ。一方、家事は苦手で、料理も決してうまくはなかった。中学生になってからは、ほとんどチヒロさんが料理を担当していた。それでも母は愛情深い人で、家族を愛しているのはみんなわかっていた。だからこそ笑いながらフォローしていたのだ。
「それなのに浮気だなんて。私自身もショックではあったけど、それ以上に父が知ったら悲しむと思いました。母を許せないというよりは、父には隠さなければ、と。その日の夜、母にこっそり伝えたんです。『今日、見かけたよ』と。すると母は『あら』って。あら、じゃないでしょと(笑)。今だから笑えますが、当時は真剣でした。『お父さんにバレたら泣くよ』と言うと、わかったって」
母は娘が頼りになると思ったのだろうか。ときおりアリバイを頼んでくるようになっていった。
「明日は遅いんだけど、昔のママ友とご飯だってパパには言っておいて、と言うようになったんです。知るかと言いたいところなんですが、なんとなくかばってあげたくなるのが母の得なところなんですよね」
母の恋はそれから数カ月で終わりを迎えた。
>アリバイ工作を拒否したらバランスを崩した母