人間関係

「僕にはまだ生々しい記憶」。35歳男性が四半世紀かけて抜け出した“母親の不倫”という呪縛(2ページ目)

10歳のころ、母親と近所のおじさんの“怪しい関係”が噂になった。噂にしては、具体的な目撃談がいくつもあったと35歳男性は回想する。息子にとって母親の恋や不倫というのは、受け入れられるものなのだろうか。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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偶然に見かけた両親の“意外すぎる”姿

不仲に見えた両親だが、5年前、父が定年退職してからはふたりで畑仕事をするようになっている。一度、帰ったときにふたりが声を掛け合って寄り添っている姿を見た。

「父が腰が痛いと言ったら、夕飯後に母が腰を揉んであげている。その後、『悪いな。おまえは肩が凝るって言ってたな』と今度は父が母の肩をさすっていた。なんだこれ、と思いましたよ。冷戦状態だと思っていたから、これから年をとってどうするんだろうと心配していた。なのにふたりは案外、仲良くやっている」

どこか親に裏切られたような、自分だけがわだかまりをもっていたことが滑稽だったような、ヘンな気分だったと彼は言う。

「あの一件から四半世紀たった。僕にはまだ生々しい気がするけど、両親にとってはもう『昔のこと』なのかもしれません。僕と両親とでは時間の流れが違う。60代だから、まだ老いているというほどではないけど、以前に比べると両親は年をとったなと思います。お互いに相手を許容できるようになったのかもしれません」

タカヒトさんは30歳を越えても独身だった。結婚して妻に不倫されるのはごめんだと思っていた。だが、彼は今、一緒に住んでいる女性がいる。

「両親を見て気が抜けたというか、いつかあんなふうに寄り添って生きるためには、長年、夫婦関係を続けなければいけないんじゃないか、信じられるときも不信感を覚えるときもあるかもしれないけど、一緒に生きることを恐れてはいけないと思うようになって。今の彼女と付き合ってしばらくたったとき、母の不倫の件を話したんですよ。すると彼女が『お母さんにもきっと言い分はあると思うよ』と言ったんです。不倫に追いやった父が悪いとも、不倫に走った母が悪いとも言わなかった。それがいいなと思って彼女に心を許すようになっていきました」

子どもができたら結婚するつもりだと彼は言う。自分が子どもをもつのは怖い気もするが、彼女とならやっていけると感じている。もうじき両親にも紹介するつもりだ。

長い年月かかったが、彼は母親の不倫という呪縛から抜け出した。

母親の不倫に対する息子の気持ちは、娘より複雑なのかもしれない。高校生時代、母親の不倫に気づいて母を殴ってしまったと言った男性もいる。母は泣き崩れて謝ったというが、彼は40代になった今も、その母を心から許すことはできないとつぶやいた。

男の子にとって、母は初めて接する異性だし、なにもかも受け入れてくれる女性だから、どうしても美化しやすい。だからこそ母の不倫は男の子の心に傷を残す。女性観に影響を及ぼすこともあるだろう。「母親の恋」は、息子にとっては自然に受け入れることなどできないことが多いのだ。
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