50歳を過ぎると周りの目が変わって
40代もときどき恋愛をし、仕事に明け暮れたミカさんだが、50歳を過ぎると周りの目が少しずつ変わってきたような気がするという。「50歳前後で体調を崩しました。めまいや頭痛に悩まされて。更年期だったんでしょうね。ホルモン補充療法や運動をすることで乗り切ったと思ったのが55歳手前。白髪やしわ、シミにも悩まされましたね。老化の一途をたどっていると実感するようになった。と同時に『定年間近のかわいそうなお局』みたいに見られていると感じました」
被害妄想ではないかと思ったのだが、「そうではない」と彼女は言う。彼女は現在、部長という肩書きだが、上司は年下の男性。彼女自身は気にしていなかったのだが、「先輩が部下ってやりづらいですよ。男同士ならまだいいけど、僕が先輩をいじめているみたいに見られがちだから」と彼は本音を明かしてくれたことがあるそうだ。
「彼は、しかも先輩は独身だしとつけ加えたんです。何の関係があるのかと問うと、会社でストレスに感じることがあっても、家庭があれば家族から必要とされていると実感できる。でも独身だとそうはいかないでしょと言うんです。え、独身者は誰からも必要とされてないわけ? びっくりしました。でもふと周りを見渡すと、『もう孫がいてもおかしくない世代なのに、夫すらいないなんてかわいそう』『年をとった孤独な人なんだから、いたわってあげないと』という雰囲気に満ちている。誰も対等に話そうとしてくれないんです」
ミカさんの部署はたまたま若い人が多いこともあって、周りが彼女とどうつきあったらいいかわからないのかもしれない。何も気にしなくていい、年齢を気にせず普通につきあってくれればいいだけなのに、過剰に気を遣ったり過剰に顔色をうかがったりしてくるのがわかる。それが彼らの優しさだと思うと怒るわけにもいかない。
「まあ、こうやって優しく社会から押し出されていくのが歳をとった者の運命かもしれませんが、私としてはまだまだ現役なんですけどね……」
ミカさんは寂しそうにつぶやいた。学生時代の友人たちからは、子どもが結婚したとか初孫誕生とかの報告が続々とやってくる。ひとりでも別にどうということはないのだが、そういえば強がりに聞こえるだけだ。
「それでもまだ定年まで7年もあるんですよ。バリバリ仕事をしていかなければと思うし、モチベーションは下がってない。でも周りが『無理してがんばっているんじゃないか』とよけいな忖度をしてくる。55歳を越えたら、そういうものとも闘っていかなければいけないんだと実感しています」
ミカさんは最近、ピアノを習い始めた。新しいことにチャレンジする気持ちは忘れたくないと心から感じているからだ。とはいえ、無難に定年を迎えようとは思っていない。新たなプロジェクトを立ち上げてもみたいし、定年後もどこかで働きたい、そのための準備もしたいと考えている。
「独身のまま老いた孤独な女。そういうレッテルだけは貼らないでほしい。心の奥ではそう叫んでいる自分がいます(笑)」
自身が感じている年齢と実年齢は違うことが多い。年齢による一般的な固定観念で人を決めつけてはならないのだ。