高校時代の友人と付き合っていたら人生は?
忘れ物は重要に見えるもの
たとえばタケオさん(51歳)の忘れものは「片思いをした彼女との決着」だった。「高校時代に初めて告白したんです。彼女からは『今はよくわからない。これから受験だし』とていよく断られたけど、友だちとしてはいい関係だった。卒業してから道が異なり、会えなくなりましたが、僕にとって彼女はその後の人生における『女神』だった。いつも心の中に彼女がいたし、いつかは彼女とゆっくりと違う道筋を歩んできたことを語り合いたいと思っていました」
タケオさんは28歳のときに社内結婚、ひとり息子が20歳になったとき、片思いをしつづけたその彼女に会いたいという思いが強くなっていった。
「自分の中で彼女への思いが消えていない。それどころかますます思いが強くなる。これは妻に対して失礼ですよね。もちろん、妻には多大なる感謝と人生の伴走者としての敬意はありましたが、片思いの彼女への気持ちとはどこかが違う。もっと正直に言うと、片思いの彼女が心の中にいることがつらくなってきたんです」
自分の気持ちに決着をつけたい。すっきりとして後半生を送りたい。そういうことだったようだ。だからこそ、彼は3年前に行われた高校時代の同窓会に出席してみようと決意した。
「それまではずっと仕事が忙しいとか家庭の事情でとか言い訳をして欠席していました。彼女に会うのが怖かったから。でも3年前は、思い切って出席することにしたんです」
そして彼女と顔を合わせ、言葉を交わした。30年以上も前の彼の告白を、彼女は覚えていてくれた。
「覚えてはいたけど、それについてはなんの感情もなかったみたいです。もしあのとき僕とつきあっていたら……という妄想も抱いたことはなかったと。それを知って30年以上抱えてきた自分の気持ちの重さがすっと抜けていきました。もし彼女が少しでも『タケオさんとつきあえばよかった』と言い出したら、僕は人生を賭けて彼女を奪いに行ったかもしれません。でも小心者の僕はきっとえらい目にあっていたはず。彼女がまったく感情を動かさなかったおかけで、それこそが自分の狙いだったとわかりました。つまり、きちんと振られたかったんですね、もう一度」
男の複雑な恋心かもしれない。高校時代のあやふやな失恋にすがる気持ちを、彼女にきちんと断ち切ってもらいたかったのだろう。
「もう忘れものはない。思い残すこともない。そんなすっきりした気持ちになりました。僕には伴走してくれる妻がいる。この人と結婚してよかったと公明正大に言える。今はそんな気持ちです」
長い片思いから目覚めたのかもしれない。
>“支配する母”からの自立を試みる。