新鮮な風を入れたい妻と、惰性を愛する夫の間の心の距離はどんどん離れていくのかもしれない。
夫は「コーヒー!」と一声あげれば、コーヒーが出てくるものだと思っている……
「ふたり」より「ひとり」?
去年、ひとり娘が結婚して家を出ていったというミサコさん(57歳)。3歳年上の夫とは結婚して30年が経つ。「娘の結婚式から帰宅してふっと気が抜けたとき、夫が『コーヒー』と言ったんです。その瞬間、この人が私の夫なのか、これまでもこれからもそうなのかと妙に考え込んでしまって。娘の結婚式では母親の私は、けっこうあれこれ気を遣い、娘の様子にも気を配って疲れきっていたんですよ。夫はずっと椅子に座って飲んだり食べたりしてただけ。それでも帰宅したら、夫は一言、コーヒーと言えばコーヒーが出てくると思ってる。そういえばずっとこんな生活だったなあと」
夫とはずっと共働きだった。だが家事は9割方、ミサコさんが担ってきた。大変そうな母を見かねて、娘は小学生低学年のころから風呂やトイレの掃除、食事の後片付けをしてくれた。いつも親の顔色をうかがわせて、娘には悪いことをしたと思っている。
「結婚式の前の晩、謝ったんですよ、娘に。私が忙しすぎてあなたの自由を阻害したかもしれない、と。娘は『そんなことない。反面教師として見てたから』と笑っていました。娘が結婚した相手は、率先して家事をやるタイプだそう。『家電に頼ってふたりで楽しよう』と言ってくれるから何の負い目も感じなくてすむ、と。『お母さんも今からお父さんを教育し直すか、見放すか。どっちかじゃない?』って淡々と言われました」
ふたりきりの生活になったのだから、とりあえず平日の食事のしたくはしなくていいよね、帰宅時間もバラバラだし、それぞれに自分の食事を用意すればいいと夫に言ってみた。
「オレにコンビニ弁当を買えというのか、と夫は拗ねてしまいました。夫に拗ねられると、私は自分の義務や責任を果たしていないような罪悪感にかられて、結局、翌日も夕飯を用意してしまった。夫のご飯をよそい、おかずを温め直し、後片付けまでして寝室に行くと、夫はすでに高いびき。割に合わないと思いました」
それまでは娘がいるから、なんとか母としての責務を果たしたいと思っていたのだが、娘がいなくなってみると、「妻の責務を果たしたい」とは思えなくなっていた。
近所では仲良し夫婦、仲良し家族と言われてきたが、実際にはそうではなかったと、ミサコさん自身が認めるしかなかった。
>1週間夫と離れて暮らしてみて決心がついた