一歩でも前へ
「『私、ずっとささやかな目標を立てていたの』とトモカは言うんです。『仕事もそうだし、家の中でも週に2回はちゃんとしたご飯を作ろうとか』、と笑っていました。共働きでどうしても食事は冷凍食品などが多くなる。だから夫が週2回、トモカが週2回作るようにしたんですって。そうしたら週の半分以上は『わりとちゃんとしたものが食べられる』って。子どもたちが大きくなってからは料理をしたがったので任せることもあったそう」コロナ禍でリモートワークになったときも、トモカさんは毎日散歩をする、ストレッチをする、通勤時間がなくなった分、英語の勉強をすると決めたそう。
「目標を立てるのは誰でもできるけど、それを続けてきちんと成果を出すことができないんですよね。トモカは出社しているときより運動不足が解消され、さらに料理をする時間もとれたのでバランスのいい食事を心がけたそう。それで3キロ痩せたんだとか。偉いなあと思いました。私はパートが雇い止めになって家でくすぶっていましたからね」
ユウミさんも1年前からまたパートを始めたが、トモカさんのように着実に一歩ずつ進んでいくことができずにいる。
「努力するのも能力なんだよねと私がつぶやいたら、トモカが『何言ってるのよ、したいことをすればいいのよ』って。『この年齢になったらしたくないことをしても意味がない、楽しいと思えることをすればいいの』って。パート仕事なんて楽しくないよと思わず愚痴ったんですが、彼女は『私はパート時代から仕事が楽しかったよ』というんです。『私はスーパーの商品係だったの。お客さんと話したり、お客さんに買ってもらえる陳列はどうしたらいいんだろうと考えるのも楽しかった』と。『その場でできる工夫をするのもおもしろかった』と言われ、トモカは私とは人間のできが違うと感心しました」
些細なことに楽しみを見つけ、些細な努力を惜しまない。それこそが自分を磨くことにつながるのではないかとユウミさんは刺激をもらったそうだ。
「工夫したって努力したって時給が変わるわけじゃないけど、自分が少しでも心わくわくすることを見つけるのが大事なんでしょうね。この年になると、後ろを向けば後悔ばかり、先は不安ばかりになるから、私は“今”を楽しむことを忘れていました」
友人に刺激を受けたユウミさんは、翌日、近所にできたスポーツジムで体験トレーニングをしたという。何かを始めなければ、明日は今日と変わらないと思ったから。今では夫もジムに入り、体力をつけようと水泳や筋トレを楽しんでいるそうだ。一緒に行くこともあれば別々のこともあるが、顔見知りになった人たちと帰りに一杯やることもある。
「楽しもうとする意識は重要ですね。何かをしてもしなくても明日は来る。だったら今日は楽しもう。そんなふうに思えるようになりつつあります」
笑って生きても一生、泣いて生きても一生。だったら笑って生きたほうがいい。ユウミさんはそう言って笑顔を見せた。