この先を考えると不安
夫はあと数年で退職となる。その後も関連会社で70歳までは働くことができるので、ミチコさんとしてはぜひそうしてほしいのだが、夫自身はあまり働き続けるつもりはないらしい。「『65まででいい、これ以上ぼろ雑巾のように使われるのはうんざりだ』と言ったことがあります。いつもは穏やかな夫がかなり強い言い方をしていたので、会社には積もり積もった不満があるのかもしれません。でも夫のことだから、会社を辞めたら家にこもると思うんです。今だって週末はほとんどリビングに座っているだけですから、あの状態がずっと続くと考えたら、私がおかしくなりそう」
彼女自身はパートを続けられる限り働くつもりだが、夫のことだから「オレの昼食を用意しておいて」と言い出しそうだ。
「今だって、私が週末に友人と出かけることを伝えたら『昼ご飯、どうすればいいの?』と聞いてくる。大人なんだから自分で何とかしてよと言うとぶつぶつ怒ってるんです。平日もほとんど家で食べるので、私は食事係から抜け出せない」
学生時代の友人と旅行でもしようという話も出ているが、夫の食事はどうしようと思うと気持ちが萎えるという。
「そもそも食事ひとつ自分で作れないっておかしいですよね。私だって結婚当初はろくにできなかったけど、努力しましたよ。料理ができないなんて威張れる話じゃないのに、男性は『料理は無理だから』とさりげなく言う。ヘンな話だと思います。しかも自分の分なら、お弁当屋さんだってあるしコンビニだって個食がいろいろある。妻が旅行する数日間、自分で自分のご飯くらい用意できるでしょと思うんですが」
古いタイプの男性、で片づけられる話ではない。自分の食事は妻が作るものと思い込んでいるのが問題なのだ。妻が入院したらどうするのか。いつまでも元気でいられるとは限らない。
「自分を置いて遊びに行くのが許せないのかもしれません。自分のテリトリーから出ていこうとする妻が嫌なんでしょうね。いつまでも妻をひとりの人間として認めようとしない、尊重しようとしないんだなと思います」
そんな関係しか作ってこられなかったことも情けないとミチコさんは言う。あと20年以上生きると考えたら、この先は絶望的だと彼女は苦笑した。
「子どもたちが巣立ったら、自由に出かけたいと思っていた。私は山歩きが好きなので、近所の仲良しともハイキングに行きたい。今まで主婦としてきちんと務めてきたのだから、そろそろ自由になってもいいんじゃないでしょうか。夫がいる限り、主婦に自由はないのかしらと思うと、息苦しいなと思います」
老いて頑なになりつつある夫と、より自由を求めるようになっている妻。ふたりが歩み寄ることはできるのだろうか。