知り合って60年、表面上は変わらず過ごしているが……
ずっと幸せだったのに。
「夫とは3歳のころから一緒なんですよ」苦笑しながらそう言うのは、トモカさん(63歳)だ。すらりと背が高く穏やかな雰囲気の彼女のその苦笑いから、何とも言えない悲しみが静かに伝わってきた。西日本のとある町で生まれたトモカさん、保育園で知り合った仲良しの男の子とは、小学生のときに「いつか結婚しよう」と約束した。高校は別々だったが付き合いは続いた。
「夫は東京の大学へ、私は地元の大学へ進学。それでもお互いに結婚の意思は変わらなかった」
大学卒業直前に婚姻届を提出したものの、夫は東京の会社で就職し、そのまま留学した。トモカさんは地元で就職したので離れ離れの2年間となったが、それでもふたりの心が離れたと感じたことはなかった。
2年後、ようやく東京で同居が始まった。トモカさんも仕事を見つけて働き始めた。以来、ずっとふたりは二人三脚で生きてきた。3人の子どもたちも大きくなり、それぞれ自分の道を見つけて羽ばたいていった。
またふたりきりになって10年が経つ。第二のハネムーンというほど、この10年は楽しかったとトモカさんは言う。
「それなのに、こんなことになるなんて……」
それは昨年のことだった。昨年1月にトモカさんの父が亡くなり、母がひとりきりになった。80代後半で元気だった母が、急に弱った。
「私は一人っ子なので母の面倒を見るのは私しかいない。夫が東京に連れてくればいいと言ってくれたんだけど、母が『こっちに友だちもいるから東京へは行きたくない』と。それもそうですよね、母はあの土地で生まれ育った人ですから。そうしたら夫が、じゃあ、トモカが行ってあげればいいよと」
夫の勤務先は定年が65歳。そのまま70歳までは勤める予定なので、「僕はひとりでも大丈夫、お母さんと一緒にいてあげなよ」と夫は言った。
「ありがたかった。母が動けなくなったら東京の施設に入れてもいいけど、今は普通に生活させてあげたかったから」
トモカさんは実家に戻って母と暮らし始めた。月に1回は夫の元へ帰ってくるし、夫も時間があればやってきてくれる。
>夫が長年の信頼を壊すような行為をした?