今も気持ちが揺れ動く
自分の子が同性愛者だったと聞いたとき、「なんとなくそんな気がしていた」と言う親は少なからずいる。だが今でも大半の親は内心、「え?」とびっくりするものなのかもしれない。「どうして?とも思いましたね。娘は『お母さんはいつでも、自分の好きなように生きなさいって言ってたじゃない。なのにどうして私のことは非難するような目でみるの? 普通って何? 男を好きなら普通なの?』と静かに、だけど確固たる雰囲気をもって言いました。ああ、この子はひとりで苦しんでいたのかもしれないと感じた。それでも、なかなか受け止めること、受け入れることはできなかった」
わけのわからない不安が押し寄せてきたという。ちょうど更年期症状に悩んでいたこともあり、知り合いに紹介された婦人科にかかってみた。
「その先生が素敵な女性だったんです。何か悩み事やストレスはありませんかと聞かれたので、思わず娘のことを話してしまった。そうしたら『男性を好きになって結婚して子どもを産む。それが自分の思ったような娘さんの生き方だと決めつけていたのでは? 娘さんを、まるごと受け止めることはできませんか? わかったふりをしなくてもいいから、娘さんと少しずつ対話をしていったら』とアドバイスされて。そうか、私は娘が自分の思った通りの生き方をしていないから不安なんだとわかりました」
それからレイコさんは、少しずつ娘の気持ちを聞かせてもらうようになった。娘には娘の人生があるのだと思いながら。
「娘は最初、どうせわからないからと話してくれなかったんです。『とにかく私は結婚もしないし、子どもも産まない。それだけ伝えておきたかった』って。でも、何もかも話してほしいわけではないけど、あなたのことをちゃんと知らなかった。ごめんねと言いました。だから知りたい、と。そうやって少しずつ娘のことを知るにつけ、私はシングルマザーだからと娘にずいぶんいろいろなことを無言のうちに強要していたのかもしれないと反省するようになりました。母一人子一人だから、バカにされたくないという思いが私にあったんです。娘にもいい成績を取ってほしかったし、いい高校、いい大学にも行ってほしかった。娘はそれを自分の目標としていたけど、本当は私から押しつけられた価値観の中で生きてきたんでしょう。苦しい思いをさせてしまったと思います」
娘が唯一、自分の意見をはっきり言ったのが同性愛者だというカミングアウトだった。レイコさんは今、ようやく「そうなんだ」とごく自然に受け止められるようになったという。
「友人の話なら、『子どもは自分と別人格なんだから、まっすぐ受け止めてあげなさいよ』と言える。なのに自分の子だと話は別。そうなってしまうんですよね。“普通”に縛られていると。それがようやくわかった。今は娘がどう生きようと応援してるよと言えるようになりました」
最近、娘のパートナーを紹介された。もうじきふたりは一緒に暮らすそうだ。びっくりさせられたこの1年だったが、娘がパートナーと一緒にいるときの笑顔はとても素敵だったと最後はレイコさんも笑顔になった。