一人一台端末により「板書を写す」ためにノートを取る時代は終わった!?
ノートといえば「板書を写すもの」というイメージをもっている方がほとんどでしょう。しかしGIGAスクール構想により実現した「一人一台端末」の活用により、その機会も減りつつあります。各生徒のノートを共有し合うなど、新しい学習スタイルも生まれました。 また学習指導要領によると、文科省は子どもたちに必要な資質・能力の三つの柱として、「1.実際の社会や生活で生きて働く知識及び技能」「2.未知の状況にも対応できる思考力、判断力、表現力など」「3.学んだことを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力、人間性など」を掲げています。このように学びのあり方自体が変わろうとしている今、ノートの取り方ひとつ取っても、記録のためから「学んだことを活かす」ためと変わりつつあるのです。
そんな中、今注目されつつあるのが、探究的な学びにつながる「探究ノート」です。
なぜ「探究学習」が必要なのか? 高校入試では「特色選抜」も注目
今注目を浴びている「ChatGPT」をはじめとする生成型AIは、キーワードを打ち込むだけで定型文やイラスト・画像などを作成することも可能にするなど、社会に目まぐるしい変化が起きています。しかし人間がもつ感性や知識・経験といった個性は、AIに負けないよさがあることはたしかです。そのため、みなが同じように教科書的な知識・技能を身につけるのではなく、主観や感性に基づいた個性的な学びが今後さらに重視されていくはずです。
この傾向は、入試においても同様です。大学受験では「総合型選抜」や「推薦型選抜」で入学する学生の割合が年々増えており、高校受験でも「推薦入試」はもちろん、個性を活かした「特色選抜」が注目を浴びています。読み書き計算といった学びが大切なのは言うまでもありませんが、みながみな同じことを一律に学ぶのではなく、他の人とはちがうことを究めることがより重要になっていくのです。
とはいえ「探究的な学び」といっても、何をしたらよいか分からないという人がほとんどでしょう。そんなときは学習指導要領の資質・能力の三つの柱にもあるように、「日常生活に関連した学び」や「学んだことを生かそうとする姿勢」が参考になります。
そして家庭学習や自主勉などでの「探究学習」の実践におすすめなのが、興味のあることやもっと知りたいことをまとめた「探究ノート」です。「探究ノート」には、教科書もなければ、決まった書き方もありません。教科書に載っていない歴史上の人物について調べたり、興味のある食べ物や動物について調べたり、とにかくワクワクするノートを目指しましょう。
次にいくつか事例を取り上げて、「探究ノート」のつくり方を紹介します。
探究ノート事例1:「ラーメンのおいしさ」を調理科学の視点で調査
まずは、ラーメンのおいしさを調理科学の視点で、イラストとともにまとめた探究ノートを紹介します。こちらは、高校のデザイン科に進学した塾生が描いてくれました。文章だけでまとめるよりもわかりやすく、何よりもラーメンのおいしさが伝わってきます。
うま味の主な成分には、「アミノ酸」(植物由来のグルタミン酸を含む)や、動物や魚由来の「イノシン酸」などがあります。醤油ラーメンは、醤油(グルタミン酸)、カツオや煮干しだし(イノシン酸)などでできています。これらがバランスよく含まれていると、うま味が何倍にもなるためおいしいのです。
ちなみに、豚骨ラーメンにはイノシン酸、みそラーメンには大豆由来のグルタミン酸やアスパラギン酸などが含まれるため、醤油ラーメンとは違ったおいしさがあることがわかります。
探究ノート事例2:好きなアニメのタイトルやセリフを英語版を調べた
次は、アニメ好きな生徒が日本の人気アニメの英語版のタイトルやセリフを調べた探究ノートを紹介します。中学校では単語や文法など本格的に英語を学ぶことになりますが、このように好きなアニメと関連づけて英語を学ぶことで、深く楽しく学習できるのではないでしょうか。 『進撃の巨人』(著者:諫山創/講談社)を自動翻訳で英語にしてみると、「Advancing Giants」となりました。なんだかしっくりきませんね。英語版の正式タイトルは『Attack on Titan』です。「進撃」だからといって機械的に「advance」や「march」とするのではなく、「進撃=攻撃」と考えると「attack」が適切なのも納得です。「巨人」も「giant」ではなく、ギリシャ神話のタイタンにちなんで、「titan(=巨大で力強いもの)」としているのもよくニュアンスが伝わってきます。同じように『鬼滅の刃』(著者:吾峠呼世晴/集英社)や『ワンピース』(著者:尾田栄一郎/集英社)など、アニメの有名なセリフを英語にするとどうなるか考えるのも勉強になります。こちらも英語版のコミックがあるため、日本語版と読み比べをしてみるのも面白そうですね。
探究ノート事例3:大谷翔平選手はなぜあんなにホームランが打てるのか
最後に、野球好きな子がまとめた、バッティングフォームについて調べた探究ノートを紹介します。大谷翔平選手がなぜホームランを量産できるかを調べてみると「バレルゾーン」が関係していることがわかりました。 「バレルゾーン」とは、もっとも長打になりやすい打球の速度と角度の組み合わせです。例えば、打球速度が時速161㎞で20度の角度で打つとホームランになる確率は約3%しかありません。しかし、同じ打球速度でも角度が27度になると、ホームランになる確率は約52%に跳ね上がります。大谷翔平選手はこのゾーンの打球が多いため、ホームランが量産できるのです(NHKクローズアップ現代「大谷翔平 驚異の進化の舞台裏」2021年6月15日放送より)。がむしゃらに練習するより、ポイントを押さえて工夫して練習することの大切さがよくわかります。
学びを高める3サイクル「仮説」→「調査・検証」→「考察」
探究ノートをただのお遊びで終わらせないために大切にしたいのは、「仮説」→「調査・検証」→「考察」の3つのサイクルです。【仮説】ラーメンはなぜおいしいのか
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【調査・検証】アミノ酸、グルタミン酸など調理科学の視点で調べる
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【考察】ラーメンのおいしさはうま味成分のバランスにある
このほか、アニメのタイトルやセリフ、ホームランについて調べた探究ノートのケースでも、仮説→調査・検証→考察のサイクルがあることがわかります。
そして、ラーメンのおいしさを調べたケースでは家庭科や化学、アニメの英語版のタイトルやセリフについて調べたケースでは英語、ホームランについて調べたケースでは体育や物理と関係していることがわかります。
このように「探究ノート」では、初めから教科の勉強ありきではなく、調べていくうちに教科や学問の勉強とつながってくるところがポイントです。さっそく家庭でも「探究ノート」に取り組んでみてはいかがでしょうか。
【参考】
平成29・30・31年改訂学習指導要領の趣旨・内容を分かりやすく紹介(文部科学省)
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