定年後の時間は長い、でも健康寿命は……
頭と体のバランスをどうやって保っていくかが、ユウスケさんの課題だという。「今までは週末も仕事のことを考えていました。でもこれからは仕事は生活費と割り切ることにしたんです。そうすると今までほど忙しくないから、興味のあった幕末の歴史をもっと研究しよう、と」
これまでもSNSで幕末について語り合うグループに入って仲間を増やしていた。ところが実際には時間がなくて、なかなか仲間とリアルで語り合ったり行動を起こしたりすることができなかった。
「これからは仲間たちと歴史散歩をしたり、古い地図を検証したりしてみたいですね」
学生時代の友人たちとも、つい先日久しぶりに会ったばかり。
「みんなそろそろ定年ですからね。いろいろですよ。自分で事業を興した人は、まだまだ現役でいなければいけないと愚痴っていたし、副業で儲けて早期退職した人もいる。定年になったとたんに離婚されたと嘆く男もいました。一方で、定年と同時に、若い女性と再婚したとニヤニヤしているのもいたりして」
人それぞれだが、大事なことは他人を羨ましがらずに、自分の置かれた環境で精一杯楽しむことではないかと彼は言う。
「うちのオヤジは定年退職してから1年後に病気で亡くなったんです。退職後はやることもなくて、日がな1日ぼうっと過ごしていました。僕はああはなりたくない。別にキラキラした日々を送らなくてもいい。1日1日を自分なりにどう楽しく過ごすか。それを考えていきたい」
最近は出勤日でも定時で帰れるので、妻のために平日はほぼ彼が料理を作っている。もっと料理をうまくなりたいという気持ちが強くなったという。
「月に1回くらいは夫婦でうまいものを食べに行きたいですね。それを再現してみたい。平凡な人生だったし、今さら大きな夢もないけど、それでいいんじゃないかと思っています」
平凡こそ最高の幸せなのかもしれない。内閣府が公表した2022年の「高齢社会白書」によれば、2019年の健康寿命(日常生活に制限のない期間)は、男性が72.68年、女性が75.38年だという。つまり、60歳で定年になれば何の問題もなく過ごせるのはせいぜい15年というところなのだ。人生100年時代というけれど、健康で生きていける時間はそう長くはない可能性が高い。
だからこそ、ユウスケさんが言うように「1日1日を楽しく過ごす」ことが重要になってくるのではないだろうか。