30代前半、自分の「間の悪い人生」
「なんとも間の悪い人生ですよね。笑うしかないと思った。あと1年早く始動していれば正社員の道は手に入ったのに。前のアルバイト先もコロナ禍で閉店、またしても行く先がなくなりました」そんなとき、ミエさんから「うちの会社、倒産したの。実家に帰ることにした」と連絡があった。なんとかふたりで頑張ろうよと言いたかったが、タカトシさんはすでに自分のことだけで精一杯、彼女を引き止めることができなかった。
「引き止めても責任がとれない。自分の生き方をあれほど情けないと思ったことはありませんでした。『5年後、もし君がひとりで、少しでも僕に興味があったら戻ってきてほしい』というメッセージを送りました。なんとか5年で人生を立て直したい。そのときはそう思ったんです」
その後は、コンビニや他の居酒屋でのアルバイトでなんとか食いつないできたタカトシさんだが、半年前、ミエさんから「地元で見合い結婚をした」と連絡があった。
「その瞬間、僕の人生から結婚という選択肢が消えました」
フラれたショックでというわけではないと彼は言った。彼の人生を理解してくれたミエさんでさえ、自分と一緒に生きてはくれなかった。もう結婚を望んでも無理だと思い知ったのだという。
「自分ひとりが生きていくのでさえ、こんなに大変なのだし、年をとればとるほど働くことさえ難しくなっていく。そんな状態で結婚を望むのは贅沢だなと感じています。結婚だって無理なんだから、子どもなんて夢のまた夢。今は餓死しないために、少しでもいいバイト先を見つけることしかできません」
夢を持つこともできず、地べたを這うような生活だけが自分に残された道なのだと思うと彼は淡々と言う。
いや、夢はあると本当は言いたいが、今の社会状況を鑑みると、とてもそうは言えない。まだ30代前半のタカトシさんにせめて身近な目標が見つかるように、そしてそれが現実になりますようにと祈る思いで、遠ざかっていく彼の背を見つめた。