出版社に勤務しながら3歳の子どもを育てる38歳女性に、仕事と子育てや家事とどのように向き合い、キャリアや2人目の壁についてどのように考えているのかを聞きました。
社会のせいにしたくない。でも育児との両立は正直かなりしんどい
「保育園に通うひとり娘は、今3歳。1歳半頃から、仕事と子育ての両立がかなりきつい日々を送っています」と語るのは、出版社の正社員として書籍編集の仕事に携わる藤田茜さん(38歳/仮名/東京都在住/WEB広告代理店に正社員として勤務する夫と娘との3人暮らし)。書籍の企画・編集業務を行い、「たくさんのスタッフと力を合わせて1冊の本をつくりあげる喜びややりがいは、何ものにも変えられません」といいます。
藤田さんは大学卒業後、何社かを経て現在の会社と数年間の業務委託契約を結び、2019年からは正社員として働いています。
「春から正社員になるという直前のタイミングで、まさかの妊娠が発覚。しかし、会社は快く受け入れてくれました。出産予定は10月でしたが、9月の第1週まで働いて、産休・育休をトータルで約半年間取得。翌年3月、娘の保育園入園1カ月前に職場復帰しました。入園直前の1カ月間は、育休をとった夫がワンオペで育児と奮闘してくれました。出産手当は健康保険から支給されたのですが、入社するまでは業務委託(フリーランス)の立場だったので、雇用保険の払い込み期間が足りなくて育休手当は受給できませんでした。そのため経済的な面でも『なるべく早く復帰したい』という気持ちがあったのです」(藤田さん以下同じ)
しかし、2020年、新型コロナによる緊急事態宣言のために保育園が休園、会社もリモートワークを推奨に。育休から復帰して早々、夫婦そろって在宅勤務の生活が続くことになったのです。「夫とは出産前から『チームとして育児・家事と向き合おう』と話していたので、お互いにやりくりしつつ、私は授乳しながら原稿チェックをしたり、リモートで会議に出たりなど、なんとか生活を回すことができました」といいます。
子育てと両立しようとするなか、“仕事の質が落ちる”ことのくやしさ
仕事と育児の両立にしんどさを感じるようになったのは、お子さんが1歳半くらいになった頃からだといいます。「1歳を過ぎた頃って、歩き始めたり、いろいろなことに興味を持ち、でもまだうまく話せないからかんしゃくを起こしたり、時や場所をわきまえずママやパパと遊んでほしがったりする時期じゃないですか。
特に、新型コロナの感染が増えて保育園が突然休園になったときが大変で、夫婦ともに仕事と子育ての両立が上手くいかずイライラがピークに達していた時期でした。夫婦でリモートワークに切り替えることができたのはよかったのですが、集中して原稿を読みたいのに娘が何度も抱っこをせがんでくるなどして、夫に『ちゃんとみてよ!』と八つ当たりしてケンカになったりすることなどもしょっしゅう……。そんな私たちをみて娘も泣き出してしまったときには、『娘は何も悪くないのに』と自己嫌悪に陥ったりしていました。
普段の生活は、私が18時までに娘を園に迎えに行き、帰宅後に夕飯づくりと娘の入浴、寝かしつけ。そして、夫が食事の片づけと洗濯という分担になっています。しかし、夫の残業が続いたときは文字通りのワンオペで、『なんで定時に仕事を終わらせられないの? あなたの会社、どうなってるの!?』と、夫をどなりつけてしまうこともあります」
夫と助け合いながら育児・家事と向き合っているにもかかわらず、成長して自我がめばえた子どもの言動に振り回されることが多くなり、精神的なバランスの取り方が難しくなったり、忙しさのあまり体力的にもふんばりがきかなくなった、と出産前とは違う自分を自覚しているといいます。
「でも……」と、藤田さんは続けます。
「『働きたい』と思っているのは自分自身。年齢的にもキャリア的にも、今が仕事の面白さややりがいを感じる時期であることを自覚していますし、経済的な安定にもつながることから、『仕事を辞める』という選択肢はありません。正直、子育てに対する自己嫌悪などより、『仕事の質が落ちてしまっているのではないか』というくやしさやいら立ちのほうが大きかったです。
しかし、大変だ大変だと毎日ヒーヒー言いながらも、最近は、通勤時間を利用して読みたい本を読んだり、帰宅後にご飯をつくりながら聞きたかったラジオを聞いたりなど、工夫しながら自分の時間を確保することができるようになりました。
何よりも、娘の成長が嬉しいですね。私は漫画を読むのが大好きなのですが、娘がもう少し大きくなったら、自分が好きな漫画を親子でいっしょに読むのが楽しみなんです」
「夫と協力しながらであっても仕事と育児の両立は大変ですが、共働きだった両親が私たちきょうだい2人を育てあげてくれた姿を見ていることなどから、“2人目”は欲しいと考えています。不遜な発言になるかもしれませんが、2人目ができたら、産休育休が取得できて仕事を一時期おやすみできますし。実際に産まれたらいろいろ大変なのでしょうが、産休・育休を取得することで気持ち的にリセットでき、英気を養えるのではないかと勝手に思っています」といいます。
支援の地域格差に疑問。子育てしながらでも働きやすい企業が増えることが鍵では?
働きながら子育てしづらいことを世の中のせいにする風潮が強いなか、悩み、もがきながらも夫と協力しあい、仕事・育児・家事に奮闘する藤田さんに、今の日本の社会に望むことについて聞いてみました。「第一に、子育て支援については、公平性を望みます。娘は認可保育園に通えなかったため、認証保育園(国の規定では認可外にあたるが、東京都が認証した保育施設)に通っているのですが、共働きとはいえ、保育料が高額で正直家計に厳しいです。また、最近引っ越して区が変わったのですが、区によって補助金の額が異なることに初めて気づきました。わが家は引っ越しによって保育料の負担が上がりましたが、これは公平ではないように思います。
第二に、社会全体でデジタル化が進むなか、いまだに子育てに関係する書類が『手書き』というのが解せない部分もあります。保育園入園の際に提出する書類がわかりにくく、補助金をもらうために何が必要なのかなどについて読み解くのに非常に時間がかかりました。産後間もなくだったり慣れない育児に疲弊していて、心身の状態が安定していない親が、さまざまな書類作成をこなすのは非常にハードに感じます。デジタルを活用し、スムーズに申請できるようなシステムができることを望みます。
また、幸いなことに、夫も私も勤める会社の働く時間や場所の制約がゆるやかで、子育てとの両立がしやすい環境にあると思います。しかし保育園つながりのママ友の話を聞くと、働き方の制約がガチガチの会社のほうが多い印象で、『来年から幼稚園に入れたいけれど、会社の就業時刻がきっちり決まっていて、入れたい園に通わせることができない』など、ジレンマを抱えています。
業種にもよるとは思いますが、みんなで生活スタイルの多様性を受け入れ、就業形態はもちろんのこと、育児や家事との向き合い方などさまざまな要因に対して企業や社会が寛容になっていくことが、子育てしやすい、子どもを産みたいと思える社会につながっていくのではないでしょうか」