感謝と謝罪を言葉にしない夫
「ごめんね」と「ありがとう」は、人とのコミュニケーションにおいて最低限かつ最重要な言葉かもしれない。ところが言葉を出し惜しみする一部の夫たちは、この二言を言わない。結婚して12年たつサチコさん(41歳)は、「うちの夫がそうです」と言い切った。3歳年上の夫とは職場の先輩後輩だった。結婚を機に退職した彼女は、今はパートで働いている。
「夫の『収入に応じて家事をしよう』という命令のような提言のもと、家事育児は私が8割。実際にはほとんどワンオペ。ちょっとでも愚痴ると、『じゃあ、オレが専業主夫になる』と言う。意地が悪いですよね。夫が帰ってくるのは子どもたちの食事が済んだころ。再び食事を温めたり給仕したりしなければならないんです」
一度、自分でやってと言ったら、「だったらいらない」と食事を拒否されたこともあるという。
「でも子どものお風呂や歯磨きの世話をしながら、調理し直して出した料理を目の前においても、一度もありがとうと言ったためしがない。感謝なんてしなくていいと思っているんでしょうね、それは私の仕事だから。でも、パート先の上司でさえ、仕事の報告をすると『いつもありがとう。無理させちゃってごめんなさい』と言ってくれる。だから次もやる気になるわけです。夫はそのあたりがまったくわかってない」
とはいえ、会社では夫は上からも下からも好かれていると、以前、夫の後輩から聞いたことがあるそうだ。だからこそ、人はわからない。
「夫は年に1、2回、後輩たちを連れてくることがあるんです。確かにみんなに愛されているようには見える。そのときだけは私のことを『うちの妻の料理はうまいんだぞ』と私を立ててくれたりもするけど、やはりありがとうは言いませんね。私が知っている後輩もいるので、みんな気を遣って感謝してくれますが」
あるとき、夫が誤解をして子どもを怒ったことがある。誤解だと子ども本人とサチコさんが説明したが、夫は聞く耳をもたなかった。その後、ようやく誤解がわかったとき、夫は「おまえがちゃんとわかるように説明しないからだ」と再度、子どもを叱責した。
「あなたは自分が誤解したことを謝るつもりはないわけ?と思わず怒鳴ってしまいました。でも夫は、私にも『おまえたちの説明が悪すぎた』というだけ。子どもには『自分に非があるときは謝るのよ』と言い聞かせていた手前、気まずかったですね。お父さんは違うのかと言われましたよ。しかたがないから夫のいないところで、『お父さんはひねくれてるの。ああいう大人にはならないで』とぶっちゃけてしまいました」
こういうのはよくないと思いながらも、夫を反面教師にしてもらうしかないとサチコさんは腹を決めたという。「偏屈な夫」とレッテルを貼ってしまえば、それを逆手にとって教育できるかもしれないと、サチコさんは苦い表情でつぶやいた。