次の男性は……?
アカリさんは前の彼がよほど好きだったのだろう。恋愛になりかけた人もいたのだが、どうしてもどっぷり浸ることができなかった。「やっとこの人だと思えたのは、30歳を過ぎて出会った人です。友人と飲み会をしているときにトイレに行く途中で、酔っていたこともあり人にぶつかってしまった。それが彼でした。大丈夫ですかと抱きとめられて一目惚れして。彼のほうから名刺をくれて、『さっきからあなたを見ていました』って」
翌日、連絡をとって会った。彼はアカリさんより5歳ほど年上で、「小さいけど」と照れながら会社を経営していることを明かしてくれた。バツイチであることも話したという。
「正直でオープンな性格。前の彼とは正反対だった。気前もよかったんですよ。出会ったのが秋だったんですが、彼は『もうじき北陸はカニのシーズンなんだけど、食べに行かない?』って。会社の共同経営者が北陸出身らしくて、おいしいお店もわかるからと言ってました。本気にしていなかったんですが、本当に連れていってくれたんですよ。カニを食べるだけのために北陸へ。こういう人がいるんだと驚きましたね」
おいしいカニを食べて温泉に浸かって、2泊3日の旅行を楽しんだアカリさんは、すっかり彼の虜になった。話も合うし、性的な相性もよかった。
「仕事もするけど遊び上手でもあった。付き合い始めて半年後の誕生日にはセンスのいいアクセサリーをもらいました。彼の知り合いがデザインしたものだと。とにかく人脈が広いし、話題も豊富。私も彼につまらない女だと思われないよう、新聞や本をよく読んだし、さまざまな情報を仕入れるようになりました」
ところがこの関係の幕切れはあっけなかった。ふたりで食事をしたあと、ホテルのバーへ行ったときのことだ。彼女は彼にしなだれかかっていた。そこへ女性が近づいてきた。
「にいさん、何をしているのとその女性が言ったんです。あなたは誰?と私にも言いました。彼はその女性を見ると、急に私と距離をとり『いや、ただの友だちだよ』って。え、どういうことなのと思わず彼を見ました。彼女は私に『私、義妹なんです』と。ギマイって何?と思っていたら、『私の姉が彼の妻です』と。結婚してたの!と、思わず叫んでしまいました。『知らなかったんですか』と彼女に言われて、『今の今まで知らなかった』と答えました。その隙に、彼は逃げてしまったんですよ」
飲み代はアカリさんが払った。女性はアカリさんが本当に知らなかったことを確認した上で「わかりました。一応、連絡先を聞いていいですか」と言った。
「私も彼女の連絡先を教えてもらって……。それきり彼とは連絡がとれなくなりました。数日後、彼女から電話をもらったんですが、彼は東京で仕事をし、妻は関西で仕事をしている、子どもは妻と一緒にいるという形をとっていたそうです。でも仲がよくて月に1、2度は彼が関西へ行っている、と。妻の仕事に合わせて帰っていたので、平日に帰ることが多かったようですね。あのときは妹さんがたまたま出張で東京に来ていて、あのホテルに泊まっていたそう。一杯飲んで部屋に行こうとしていたんですって。悪いことはできませんね」
この人だと思った男性に、結果的に2度とも騙されていたアカリさん。男性不信になったし、そもそも自分の男を見る目に完全に自信をなくしたと苦笑いする。
「2度目のショックで、1度目のショックも蘇ってきて。立ち直れないまま、この年齢になってしまいました。大恋愛だと思っていたのは私だけ。それがいちばんつらいですね」
あと2年で不惑なのに、自分は何をしているのだろう、この先はどんどん恋愛がしづらくなっていくはず。どうやって40代からを生きていけばいいのだろうと彼女は言う。
「元気そうに見えると思うんですが、私、家に帰るとけっこうひとりでうじうじ悩んだり泣いたりしているんです。職場では楽しそうに仕事してるよねと言われるから、そういうイメージを壊さないように頑張っているだけ……」
もう恋愛で幸せになれるとは思えない。どうしたらこの状態から抜け出せるのか。苦悩はまだまだ続くとアカリさんは考えているそうだ。