運命の彼は私に隠し続けていた
「20代、30代と私の恋愛、本当に暗かったんですよ」苦笑しながらそう言うのは、アカリさん(38歳)だ。大学を卒業して就職した会社で、同期の男性と親しくなった。同期といっても彼は大学院卒だったので2歳年上。
「物静かでいい人でした。周りは『謎の人』と呼んでましたね。親しくはなっても自分からアプローチしてこないから、私が熱烈ラブレターを送って。そうしたら受け止めてくれたんです」
彼は淡々とした性格なのか、デートで待ち合わせしても目が合うとニコッとしただけで、それ以上の愛情表現はめったにしない。週に1回くらい会って食事をしながらいろいろな話をし、帰りにアカリさんの部屋に寄ってから帰っていく。それがパターンになった。
付き合いが半年ほど続いたところで、「たまには一泊で週末、どこかに行ってみない?」ともちかけたが、反応は鈍かった。週末は出かけたくないのだろうかとアカリさんはふと思った。そういえばわざわざ週末にどこかへ出かけたのは、ほんの1、2回しかなかった。彼は週末は仕事をしたり勉強をしたりしていると最初のころ言っていたので、彼女もあえて誘わなかったのだ。
「やっぱり週末は忙しいのと尋ねると、資格取得を目指しているからって。偉いなあ、私も勉強しようかな、一緒にしてもいい?と聞いたら『勉強はひとりでするものでしょ』って。感じが悪い言い方ではないんだけど、なんとなく拒絶されたような気はしましたね」
1年経っても彼との心の距離は縮まらなかった。表面上は恋人関係なのだが、なぜか彼が心を開いてくれないとアカリさんは思えてならなかった。いろいろな方法で彼の心を探ったが、わからない。
「2年経ったとき、あなたは私のことを本当はどう思ってるのかなと聞いたんです。彼は淡々とにこやかに『好きだよ』って。あまりそういうことを言わない人だったから、それで私、すっかり満足しちゃったんですよ」
ところがその数カ月後、出社すると親しい同僚から、彼が突然、会社を辞めたみたいだと聞かされた。彼が職場恋愛を好ましく思っていなかったので、アカリさんは彼との関係をその同僚女性以外には伝えていなかった。
「そして彼女が言ったんです。『彼、うちと取引のある大手企業の役員の娘と婚約していたんだって』と。ショックのあまり倒れそうでした」
その後、彼から長い手紙が来た。親が決めた婚約者がいたこと、黙っていて申し訳ないと思っていること、これ以上アカリを傷つけたくないから会社を辞めたこと。ところが手紙には住所が書かれていなかった。アカリさんは返事さえできないのだ。彼は実家に帰ったとか、いや、アメリカに留学して帰国後に結婚するらしいとか、アメリカでそのまま結婚するようだとか、いろいろな情報があったが、アカリさんは追う気もしなかった。
「私は彼にとって何だったのか。そればかり考えていましたが、そんなこと、わかりようがありませんからね。ただ、バカバカしい、時間を無駄にしたと吹っ切ることにしたんです」
それからは仕事に精を出すしかなかった。ときには友人と夜中まで飲んだり歌ったりと思いきり遊んだ。気づくと30歳になっていた。
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