日常生活と子どもたちだけが救い
どうにもならないことに直面したときは、頑張ろうとせずに「日常業務だけ遂行した」とアズミさんは言う。「不幸の波に飲み込まれないよう、淡々と生活するしかなかった。娘ふたりを学校に送り出し、私はパートに出かけ、家事をして娘たちと話して寝る。中学生と小学生の娘たちには、本当に迷惑もかけたと思います」
だけど……と、アズミさんの目が光った。
「夫はどうしていたのか、と先日、ふと思ったんですよ。父が亡くなったとき、夫は通夜には来たけど、葬儀はどうしても仕事で行かれないと。しかたがないかと思いましたが、親戚からは『アズミちゃんの夫は来てないのか』と言われたりもしました。その後、私が落ち込んでいても夫から慰めてもらった記憶がない」
兄の離婚に際しても、母の病気のときも、夫から特に心配するような言葉はかけてもらわなかったし、相談しても「きみの家のことはわからないよ」とさえ言われた。
さらに親友の死で、沼に足をとられそうになっているときも、夫は何も言わなかった。
「あら、これ、どういうことなのと思ったんです。私はもともと夫に愚痴を言ったり、小さなことで相談したりしてこなかったけど、それは多忙な夫を煩わせたくなかったから。でもさすがに去年起こったさまざまなことについて私の気持ちが沈んでいるのはわかっていたはず。だけど夫はあまりにも淡々と生活していましたね」
なんだかモヤモヤがおさまらなかったアズミさんは、「去年の私、すごく不幸が続いたと思わない?」と言ってみた。夫はそうだねと言ったあと、「でもさ、世間にはよくあるじゃん、そういうことって」と言い放った。
「もしかしたら、落ち込んでいる私を淡々と見守っているということなのかもと好意的に解釈していたんですが、違ってました。誰にでもあり得ることだと思っていただけ。なんでしょうね、この違和感。夫と私の間には、実はとんでもなく深くて暗い溝がしっかりできてしまったんだなと実感しました。この先の夫婦関係、少し変わっていくかもしれません」
もちろん、悪い方向にですよ、とアズミさんはため息をついた。