姉自身がダメ夫に思うこと
トモコさん自身はどう思っているのだろう。ユキエさんを通じてトモコさんに会ってみると、スーツにヒールという正統派キャリアウーマンという出で立ちで現れた。「ヨシキのことですか? ダメ男なんだけど、そこがかわいいんですよね」
とろけるような笑顔になる。ダメだから好きというわけではなく、ヨシキさんのダメなところも受け入れてしまうようだ。
「私は子どもを持つ予定はないんですが、ヨシキは私の子であり、弟であり、そしてときには恋人になったりもする。先日、職場のパーティーに夫同伴で参加したんですが、なかなかのイケメンだから注目を浴びていました」
ステキな異性を連れ歩いて満足するのは、男女ともに変わらないのかもしれない。だが、このまま夫婦としてやっていけるのだろうか。
「妹は知らないと思うんですが、ヨシキは不遇な生い立ちなんです。幼いころに両親が離婚して、一緒に暮らしていた母親が再婚、継父にさんざんいじめられたそうです。暴力もふるわれていたみたい。だから彼、たとえば人混みに出かけて、男性の怒号などを聞くと急にびくついて動けなくなる。トラウマなんでしょうね。私はそんな彼に、人生をやり直してほしいんです。だから今は甘えていいと思っている」
その事情はヨシキさんのためにも、誰にも話さないとトモコさんは決めている。ヨシキさんは、そんなトモコさんの気持ちをありがたいと思いながら、子ども時代をやり直している感覚なのかもしれない。
「ヨシキは親のことは誰にも話していないそうです。大事な秘密を話してくれたことで、私たちの関係は強くなったような気がします」
彼女は仕事が好きだしやりがいを感じてはいるが、「夢らしい夢」はもっていなかった。だから
「絵を描いて暮らし、いつか絵画教室をやりたい」というヨシキさんの夢に協力するつもりでいる。
「私も同じ夢を見たいなと思って。浮気なんかどうでもいいんです。彼が居心地のいい場所を作っておけば必ず帰ってくるから。今まで年下とつきあったこともないし、頼りたいタイプだと思っていたんですが、実は頼られるのが心地いい。ヨシキと一緒にいると、自分の今まで知らなかった面を自覚できる。それがうれしいんです」
トモコさんは、ヨシキさんに利用されているわけではなく、一方的に与えるだけの関係でもないと断言した。人に何を言われてもかまわない。私たちならではの愛の形があると彼女はきっぱり言った。