食生活・栄養知識

ビタミンK1とK2の違い…体の中でどのビタミンKもMK-4に変換される仕組み

【薬学博士・大学教授が解説】「ビタミンK」にはたくさんの種類があるので、どのビタミンKが一番体にいいのか気になるかもしれません。ビタミンK1とK2の違い、体の中に取り込まれたビタミンがどのように働くのか、少し専門的な内容について、詳しく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

異なる種類のビタミンKでも、体内ですべてビタミンK2に変換される

緑黄色野菜にも多く含まれるビタミンK1とK2の関係とは

緑黄色野菜にも多く含まれるビタミンK1とK2の関係とは


ビタミンKは、脂溶性ビタミンの一種で、血液凝固や骨形成に欠かせない栄養素ですから、必要量をしっかり食べ物から摂取しておきたいものです(詳しくは「ビタミンKとは…多く含む食品・止血に欠かせない大切な役割」、「ビタミンKの役割と働き…血液凝固と骨形成に欠かせない栄養素」をお読みください)。

ビタミンKを最も多く含む食品としては、ほうれん草、小松菜、春菊など緑色の濃い野菜や海草類が挙げられます(植物の葉緑体にビタミンKが含まれているため)。また、納豆、チーズ、キムチなどの発酵食品にもビタミンKが含まれています(微生物がエネルギー産生のためにビタミンKを利用しているため、詳しくは「なぜ納豆などの発酵食品にビタミンKが多く含まれているのか」をお読みください)。さらに、野菜や発酵食品に比べると含有量は少なめですが、肉の中では豚肉に比較的多くのビタミンKが含まれています。

なお、「ビタミンK」は、似たような化学構造をした化合物の総称で、実際には、たくさんの種類があり、食品によって違う形のビタミンKが含まれています。天然のビタミンKは、大きくK1とK2に分けられますが、ビタミンK1は1種類、ビタミンK2は化学構造の違いでMK-1~MK-14の14種類があります。

緑黄色野菜や海藻などの植物性食品に含まれるビタミンKは、ビタミンK1です。発酵食品に含まれているビタミンKは、ビタミンK2が主ですが、食品ごとに種類が違い、納豆にはMK-7、チーズにはMK-8、キムチにはMK-6が含まれています。豚肉などの動物性食品に含まれているビタミンKは、ビタミンK2のうちのMK-4です。

ビタミンKにはたくさん種類があって、食品ごとに違うものが含まれているのなら、どれを食べるのが一番いいのか気になる方が多いと思いますが、植物由来のビタミンK1を食べても、納豆のビタミンK2(MK-7)を食べても、私たち人間の組織中のビタミンKを測定してみると、ビタミンK2のMK-4が最も高濃度に検出されます。つまり、どの天然ビタミンKを食べても、それらはすべてMK-4に変換されて、血液凝固や骨形成などに利用されているようです。

しかし、どんな食品由来のビタミンKを摂取しても、すべて同じビタミンK2のMK-4に変わってしまうのでしょうか。今回は少し専門的になりますが、その詳しいメカニズムを解説しましょう。
 

動物の体内でビタミンK2(MK-4)が作り出されるメカニズム

実験動物として汎用されるマウスやラットは、ビタミンKの供給源として安価なビタミンK3(別名:メナジオン)を添加した飼料しか与えられていないにもかかわらず、組織中にはビタミンK2のMK-4が多く検出されます。つまり、私たちと同じように、ネズミの体内では、ビタミンK3がビタミンK2に変換されるようです。しかし、具体的にどうやってビタミンK3がビタミンK2になるのかは長らく不明でした。

この疑問を解き明かすべく、神戸薬科大学の研究グループは、重水素で標識したビタミンK1およびK2を合成し、マウスに経口投与したときに、それらがどのように変化するかを詳細に検討しました(J Biol Chem, 283(17): 11270-11279, 2008; Nature, 468(7320): 117-121, 2010)。その結果、経口摂取されたビタミンK1は、リンパ管系を介して体内へ吸収され、小腸で側鎖が切断されてビタミンK3となり、体循環を経て組織に移行し、各組織の細胞内でビタミンK2のMK-4へと変換されることが明らかとなりました。また、同研究グループは、ビタミンK3に長い側鎖を付加する酵素が存在すると考え、様々な角度から探索した結果、それまで機能不明だったタンパク質の「UbiA prenyltransferase domain containing 1 (UBIAD1)」が、ビタミンK3からMK-4を生成する役割を果していることを突き止めました。

以上の知見をまとめると、下図のようになります。
ビタミンK,UBIAD1

ビタミンK1 や MK-7 は動物の体内で側鎖が切断されてビタミンK3 となり、UBIAD1 という酵素の働きで MK-4 に作り替えられる。

野菜などの植物性食品に含まれるビタミンK1を食べようが、納豆に含まれるビタミンK2のMK-7を食べようが、それらはみんな小腸で側鎖(ジグザグ状の炭素鎖)が切断されて、側鎖の無いビタミンK3になります。ビタミンK3は、組織にあるUBIAD1という酵素の働きで、ゲラニルゲラニルピロリン酸と反応して、炭素数20の長い側鎖がついたビタミンK2のMK-4になるのです。なお、小腸に存在すると想定されている側鎖切断酵素はまだ同定されていないので、今後の研究に期待しましょう。

豚肉などの動物性食品に含まれるビタミンKがMK-4である理由

上で解説したメカニズムは、主にマウスを用いた実験で解明されましたが、私たち人間の体内でも同じことが起きていると考えてよいでしょう。また、人間だけでなく、他の動物でも同じだと思われます。

豚肉、牛乳、鶏卵などの動物性食品に含まれるビタミンKの含量がそれほど多くなく、主にMK-4であるのは、豚や牛やニワトリなどの動物が自分でビタミンKを合成するのではなく、食べ物や微生物由来のビタミンKを取り込んで、それをMK-4に変換して利用しているからではないでしょうか。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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