止血に必要なビタミンKの役割
ビタミンK はほうれん草などの野菜に多く含まれます。
「ビタミンKとは…多く含む食品・止血に欠かせない大切な役割」で解説したように、ビタミンKは、脂溶性ビタミンの一種で、「血液凝固に必要な栄養素」として見出されたことから、当初は Koagulations Vitamin(ドイツ語で「凝固ビタミン」という意味)と呼ばれ、これが後に略号Kをあてはめて「ビタミンK」と呼ばれることになったものです。
出血を止めるために、私たちの体には「血液凝固反応」という仕組みが備わっており、この反応には、主に肝臓で作られる「血液凝固因子」が関わっています。血液凝固因子は10種類以上あり、そのうちのⅡ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹの合成にビタミンKが必須なので、ビタミンKが不足すると血液凝固反応全体が機能しなくなり、止血が不完全になってしまうというわけです。そうならないためには、他のビタミンと同じように、食事が大切です。
ビタミンKは、植物の葉緑体で作られるため、ほうれん草、小松菜、春菊など緑色の濃い野菜や海草類に多く含まれます。青汁などの健康食品にも含まれています。また、納豆に含まれる納豆菌はビタミンKを産生しているので、納豆を食べることで多くのビタミンKを摂取することができます。
しかし、何らかの病気になったときなどに、食事からのビタミンK摂取だけでは対応できない場合には、「薬」という形でビタミンKが使われることもあります。また、その場合に、薬と食べ物の組み合わせで問題になることもあります。そこで、今回は、ビタミンKにまつわる薬と食べ物の関係について解説します。
赤ちゃんに与えるK2シロップとは? 医薬品としても使われているビタミンK
赤ちゃんにビタミンK2シロップが与えられるのはなぜでしょうか?
ビタミンKが血液凝固に欠かせない役割を果していることが分かったら、血液凝固の異常によって生じる病状の改善にビタミンKそのものを利用しない手はありませんから、当然のように、ビタミンKは、医薬品としても応用されています。ただし、健康な成人が通常の食事をしていれば、ビタミンK不足になることはなく、必要な量のビタミンKはたいてい満たされていますから、必要以上にビタミンKを補っても効果がありません。効果があるのは、ビタミンK不足になる限られた例ということになります。
たとえば、生後間もない赤ちゃんは、ビタミンKが不足して、血液凝固因子を作れなくなることがあります。そのため、出血したときに止まらなくなったら大変ですから、予防目的の薬としてビタミンKが補われます。具体的には、出生直後、出生一週間後、一か月検診のタイミングで合計3回「ビタミンK2シロップ剤(商品名で”ケイツーシロップ”と呼ばれることが多い)」を赤ちゃんに飲ませるのが一般的です。出生直後と一か月検診の時は、医療現場で飲ませてくれますが、出生一週間後は母子ともに退院していれば、自宅で哺乳瓶などを使って親が飲ませてあげることになります。私自身も、まだ首がすわっていない幼い我が子にごく少量のケイツーシロップを恐る恐る飲ませた記憶があります。
なお、赤ちゃんがビタミンK不足になりやすい理由はいくつかあります。
第一には、生後間もない赤ちゃんはまだ摂食できないうえ、母乳にはあまりビタミンKが含まれていないからです。母乳は子育てによいと推奨されていますが、数少ない欠点としてビタミンKが少ないことが挙げられます。ですので、生後しばらくは母乳で育ててもいいですが、いつまでたっても母乳だけで育てていると、慢性的なビタミンK不足が続くのでよくないことも心得ておきましょう。新生児用の粉ミルクには、ビタミンKが添加されているものが多いですので、うまく利用しましょう。
第二には、ビタミンKの一部は、腸内細菌が作ってくれますが、赤ちゃんの腸内には細菌が少ないので、細菌由来のビタミンKが期待できません。
第三には、赤ちゃんの肝臓は未熟ですので、ビタミンKが摂取できたとしても、それを使って血液凝固因子を作る能力が低いです。そのために、大人よりも積極的にビタミンKを補う必要があるのです。
ビタミンKは骨粗鬆症の治療薬としても使われる
また、骨量が減って骨が弱くなり、骨折しやすくなる「骨粗鬆症」という病気があります。高齢化が進行する日本では、患者数が増加傾向にあります。とくに閉経後の女性は注意が必要です。女性ホルモンには骨量を維持する働きがあるため、女性ホルモンが減ってくる更年期になると、骨量が減ってしまうのです。「ビタミンKの役割と働き…血液凝固と骨形成に欠かせない栄養素」で解説したように、ビタミンKには、骨形成を助ける作用もありますので、骨粗鬆症の治療にも役立つと考えられます。実際にビタミンK2製剤が骨粗鬆症治療薬として認められていますので、その薬を飲んでいるという方もいらっしゃるでしょう。
「ビタミンKの働きを阻害する薬」が病気治療に役立つことも
一方で、ビタミンKの働きを阻害する薬が役立つこともあります。血栓症の治療または再発抑制に用いられる薬の一つに「ワルファリン」という薬です。ワルファリンは、もともとネズミの駆除剤(殺鼠剤)として開発されました。ワルファリンを食べたネズミは、出血した場合に止血ができず死んでしまうのです。実はワルファリンの化学構造はビタミンKに似ているため、体内に入るとビタミンK依存性酵素の働きを邪魔します。血液凝固反応を生じる凝固因子を作るためにはビタミンK依存性酵素の働きが必要ですが、ワルファリンがこれを邪魔すると、血液凝固が起こりにくくなり、出血が止まらなくなるのです。恐ろしい薬ですね。でも、これが、私たちの病気の治療にも役立つかもしれないと考えられるようになり、慎重な検討の結果、医薬品として使えるようになったのです。
血液が固まらないのも困りますが、固まり過ぎるのもよくありません。血栓症は、血管内で過剰な血液凝固が進行することで余計な血栓ができて、血流を妨げてしまう病状です。心筋梗塞や脳梗塞に至ると致命的ですから、過剰な血液凝固を抑える必要があります。そのためにワルファリンが役立つのです。
ビタミンKを含む納豆や青汁は、薬との相互作用に注意!
血栓症の治療や再発抑制のためにワルファリンを飲んでいる方は、今もたくさんいらっしゃいます。そのような方が注意しなければならないことが2つあります。一つは、出血の可能性を伴う、包丁や機械を使うような危険な作業はできるだけしないこと。ワルファリンが効いているうちは、血が固まりにくくなっていますから、いったん出血が起きてしまうとなかなか止まりません。そのことを知って、十分気を付けながら生活する必要があります。
もう一つは、食べ物に注意すること。とくにビタミンKを多く含む納豆や青汁などは、できるだけ食べないようにしましょう。なぜなら、ワルファリンはビタミンKの邪魔をすることで効くので、必要以上のビタミンKを摂取したときにはワルファリンの効き目が悪くなります。ワルファリンを必要としている方は、血栓ができやすくなっているわけですから、ワルファリンが効かなくなったら心筋梗塞や脳梗塞を発症してしまう危険性が高まります。そうならないためにも、食事にも注意が必要というわけです。
ビタミンKの機能をしっかり引き出すには、ビタミンKの役割をしっかり理解しておくことが大事ですね。