赤ちゃんの脳はどうやってできていくのか
赤ちゃんの脳はどのようにしてできていくのでしょうか?
「人間だけが創造的になれたのはなぜか?脳で紐解く動物との違い」で解説したように、私たち人間の脳は、解剖学的ならびに機能的に大きく4つに分けて考えることができます(※話をシンプルにするため、小脳や大脳基底核は除きます)。
- 脳幹……木の幹のように脳の中心部を支え、進化的には非常に古い脳で、すべての動物が生存するために備えた脳の部分(※間脳を脳幹に含めるかどうかは学者によって意見が分かれますが、ここでは話をシンプルにするため間脳を含めて脳幹と呼ぶことにします。)
- 大脳辺縁系……別名「大脳旧皮質」とも呼ばれ、弱肉強食の世界や厳しい環境中でたくましく生き延びていくために哺乳動物が発達させた、野性的な本能を備えた脳の部分
- 大脳新皮質……より高度な活動ができるように発達した、うまく生きるための脳の部分
- 前頭前野……大脳新皮質のうち、特に人間が大きく発達させた、賢く生きるための脳の部分(※以下の説明では、大脳辺縁系、大脳新皮質、前頭前野を合わせて「大脳」と呼ぶことにします。)
胎児の脳の発達……2cmほどの胎児、最初に作られるのは「脳幹」
お母さんのお腹の中で新しい命が誕生すると間もなく、赤ちゃん(胎児)の頭の中では脳ができ始めます。7週齢の胎児の大きさはまだ2cmくらいしかありませんが、下図に示したように、頭の中にはしっかりと脳組織の原形ができています。ただし、生命維持に必要な「脳幹」(図の水色で塗ったところ)から形作られていき、その先端(図のピンク色で塗ったところ)に、将来「大脳」になる丸いふくらみがついている程度です。この段階の胎児の脳は、形態的には、魚類や両生類の脳に似ています。
胎児の脳幹が完成に近づくころ、遅れて大脳が発達してくる
次いで、下図は11週齢(およそ3ヶ月)です。胎児の大きさは10cm前後になり、手足も発達し動くことができるようになっています。大脳の神経細胞がどんどん増えて、それまでむき出しになっていた脳幹の一部を覆い隠すようになります。ただし、まだ大人の脳のようなシワはみられません。この段階の胎児の脳は、大脳と脳幹の体積比率や、大脳がツルツルで丸い形をしているという点で、鳥の脳に似ています。
なお、人間が他の動物と決定的に違うのは、二足で直立歩行することです。そのため、人間の脳だけに「脳幹が立っている」という特徴があります。他のほとんどの動物の脳は、横たわった脳幹の先端に大脳がくっついているという作りになっていますが、人間の大人の脳は、まさに木の形のように、直立した脳幹(まさに木の幹!)の上に、大脳がのっているような作りになっています。7週齢胎児の脳では脳幹が横たわっていますが、3ヶ月ごろになると、脳幹がぐっと立ち上がってきます。上の図でも、鳥の脳では大脳と脳幹が横並びになっているのに対して、11週齢胎児の脳では、大脳が脳幹の上にのろうとする変化が起き始めている点にも注目してください。
誕生前、構造的にも機能的にも脳幹はほぼ完成! サルに近い脳
下図は、およそ8ヶ月齢です。胎児の大きさは45~50cmくらいになり、見かけはもう立派な赤ちゃんですね。頭の中では、脳幹がしっかりと直立して、構造的にも機能的にもほぼ完成しています。大脳もかなり大きくなり、人間に特徴的な形に近づいています。主な脳のシワも見られます。目や耳も形成され、外界からの光や音を受け取る準備が整います。いつ生まれてもいいという段階です。この段階の胎児の脳は、サルの脳に近いと言えます。
実は誕生直後は未発達……最も人間らしい脳領域「前頭前野」
以上、ご覧いただいたように、赤ちゃんの脳は、動物が進化の過程で発達させたのと同じ順番で脳ができあがっていくことが分かります。動物の脳が、世代交代を繰り返しながら、何億年もかけて進化してきたプロセスが、お母さんのお腹の中で赤ちゃんが成長していく約10ヶ月の間で再現されているとは、なんとも神秘的ですね。なお、生まれたばかりの赤ちゃんは、まだ大人のような言葉によるコミュニケーション、思考したり判断すること、感情を上手にコントールすること(いわゆる「理性」)はできません。胎児として10ヶ月経過しただけでは、特にサルから人間へ進化する過程で最も大きく変化したと思われる脳領域「前頭前野」が未発達だからです。サルを超えて「人間らしい賢さ」が獲得されるには、生まれた後の環境などに影響を受けながら、さらに時間をかけて成長することが必要であることも理解しておきましょう。