手のシワの手相と同じ? 主な脳のシワがみんな同じようにできるのはなぜか
脳のシワの謎が、赤ちゃんの脳研究から明らかに
「脳が大きいほど頭がよい?脳の大きさ・シワの多さと知性の関係」で詳しく解説しましたが、私たち人間の脳にみられる特徴の一つは、たくさんのシワがあることです。下図に示したように、脳のシワは、正式には「脳溝」といい、脳溝にはさまれて凸上になった皮質の部分は「脳回」と言います。 「シワだらけの脳の境界はどこ?大脳皮質のシワと部位を読み解く」で解説したとおり、大脳皮質のシワは、一見するとランダムに入っているように思われますが、たくさんの標本を比べると、主な脳溝や脳回はみんな共通していることが分かります。手相における生命線、頭脳線、感情線、運命線と呼ばれる主なシワが、誰の手にもだいたい共通してあるのと同じです。
どうしてみんな同じように脳のシワができるのでしょうか? また、脳のシワはいつどのようにしてできるのでしょうか? その答えは、赤ちゃんの脳研究から明らかになっていますので、なるべくわかりやすく解説したいと思います。
「赤ちゃんの脳にはシワがない」は本当か
今回注目するのは、前頭前野を含む大脳新皮質のシワですが、赤ちゃんの脳ではどうなっているのでしょうか。その答えを知るには、たくさんの週齢の胎児の脳を比較した論文(J.C. Larroche, , Human Development, 257-296, 1966) が参考になります。以下では、その内容を詳しく紹介しましょう。
まず、お母さんが自分のお腹の中に新しい命が宿ったことに気づく頃、赤ちゃんの頭の中には、すでに大まかな脳の形ができあがっています。下図には、12週齢(およそ3か月)の胎児の脳を示しました。この時期には、脳幹と小脳に加え、まだ小さいながらも大脳が形成され始めていますが、外表はツルツルです。みなさんの中には、「人間の脳は、最初からシワがあって、成長するにつれて全体的に大きくなっていく」と思っていた方がいるかもしれませんが、それは違います。実は発達初期の小さい脳には、まったくシワがないのです。
次いで、15週齢の胎児の脳を見てみましょう。下図のように、大脳のサイズが大きくなり、小脳の後方にまで張り出すようになってきています。さらに、この時期の最大の特徴は、大脳の中央付近が少し凹んだようになって、脳溝のもととなる変化が起こり始めることです。この大脳のへこみは、将来は外側溝になっていくことから、「原始外側溝」と名付けられています。ただし、これはまだ少し脳が凹んだ感じになっているだけで、大人の脳に見られるようなはっきりとした脳溝にはなっていません。
最初の脳溝ができるのは妊娠5か月ごろ
さらに4週間が経過した、19週齢の脳を見てみましょう。下図に示したように、15週齢で凹みが生じた大脳の部分に、輪状のしっかりとした溝ができ、それによって囲まれ隆起した部分が見えてきます。これは脳の発達過程で生じる、最初の脳溝と脳回と言えるでしょう。そして、この輪状に取り囲む脳溝は「輪状溝」、そして輪状溝に囲まれた脳回の部分は「島(とう)」と名付けられています。 ちなみに、最初の脳溝と脳回に相当する「輪状溝」と「島」は、ずっとそのまま残り、前頭葉と側頭葉がどんどん大きくなるにつれて脳の奥の方に隠れて外表からは見えなくなるものの、最終的には大人の脳でもほぼ同じ位置に分布することになります(詳しくは「シワだらけの脳の境界はどこ?大脳皮質のシワと部位を読み解く」をお読みください)。さらに、妊娠6か月目くらいに相当する、22週と24週目の脳を見てみましょう。下図に示したように、この時期の最大の特徴として挙げられるのは、前頭葉と後頭葉を分ける「中心溝」ができ始めることです。また、島を形成した輪状溝が延長して、頭頂葉と側頭葉を分けるように、「外側溝」ができてきます。24週目ころには、側頭葉が大きく張り出してくることで、外側溝が深くなり、先に形成されていた「島」の一部を覆い隠すようになってきます。後頭葉も大きくなり、小脳の後ろに張り出すように位置してくるのも特徴です。
というわけで、「いつどの脳溝が最初にできるか」の正解は「19週齢で輪状溝ができる」ですが、輪状溝は大人の大脳皮質の外表には見えませんので、「大人の大脳皮質外表に見える脳溝で最初にできるのはどれか」の正解は「外側溝と中心溝」です。
この後、どのようにして他の脳溝ができあがっていくかは、また詳しくご紹介していきたいと思います。