人間関係

「日常的に不愉快」だった実母と同居生活。30代女性が母の“毒”から逃げようと決めた瞬間(2ページ目)

【毒親の毒は消えない #12】親子なら“分かりあえる”などというのは幻想だ。母への憎悪が肥大し家を出た30代女性は今……

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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ひとり暮らしになった母

父が亡くなってひとりになった母は意気消沈していた。だが、一緒に住んでと言わないところが母の勝ち気なところだ。

「同居してほしいならしてもいいけど、と上から目線で言ってみたら、『別にいいわよ』と。でもその言い方が悲しげで、ついつい『いいよ、するよ』と言ってしまった。そのとき母の目がキラリと光ったんですよ(笑)、本当に。この人は自分から頼むことができないんだ、何があっても私が同居したがったことにしたいんだなと察しました」

それが33歳のときだった。母はまだ60代前半。持病もなく元気だったのに、同居したとたん、彼女を夫のように頼るようになった。

「パートは続けていたんです。でも私が帰ると、宅配便の不在票が置いてある。再配達を自分で頼まないわけ。父がいたころは自分でやっていたはずです。でもやらなくなった。自分でやればいいじゃないと言ったら、『この家の責任者はあんたでしょ』って。なにそれという感じ。それなのに、あるとき私がイチゴジャムを作ったら、『イマイチ』と斬り捨てた。おいしかったんですよ、友人も褒めてくれたくらい。だけどイチゴジャムは、実は母が昔から得意にしていたものだから、私が作ったことじたいが嫌だったんでしょう」

挙句、母のわがままにアキナさんが思わず大きな声を出すと、母は急に「あんた、もっと冷静になりなさいよ、そんな大声出さなくたって聞こえるわよ」と言い出す。イライラさせるから大声になるのに、それをあざ笑うような言い方をするのだ。

「もしかしたら認知症でもあるんじゃないかと思ったんです。たまたま、母が頭痛がすると病院に行ったらMRIを撮ることになった。思わず主治医に会って、認知症とか大丈夫ですかと聞いたら、『まったく兆候もありません。いい脳をしてますよ』と。ということは、すべて彼女の性格のなせるわざ。それを聞いて、もう無理、一緒にはいられないと思いました」

それでも、自分がいなくなったら母は寂しがるかもしれないとしばらくは我慢していた。しかし3年前、コロナ禍でも仕事に行かざるを得ないアキナさんに、母は「感染して、私にうつさないでよ」と言い放った。

「こっちは仕事ですよ。それを聞いて、その日のうちに内見、部屋を決めてきました。帰宅して感染させると悪いから家を出ると言うと、母が泣き出して……。でももう決めたからと引っ越しました。母の家からは1時間ほどの距離。物理的に離れてホッとしました」

姉からは苦情が来たが、「私には無理。母娘の間で事件が起こる前に離れてよかったと思って」と伝えた。

姉は頻繁に母と連絡をとっているようだ。もしどうしても具合が悪いとか緊急事態だとかいうときは、「私が見に行くから」と話してある。

「相性が悪い。一言で言うとそういうことだと思います。この年になって無理して自分を殺して合わせる必要はない。あのままだったら本当にいつか母を突き飛ばしたり手を上げてしまったり、あるいは私自身がメンタルをやられてしまったと思う」

今は精神的に穏やかで楽しい「ソロ生活」を送っていると、アキナさんはにっこり笑った。母娘の齟齬や葛藤は、一緒にいればいるほどエスカレートしがちだ。ぎりぎりのところで離れたアキナさんの判断は正しかったのではないだろうか。
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