2022年夏、大手企業がPTAのニーズに応じた外部団体とのマッチングサービスを開始し話題となり、メディアやSNS等で「PTAの外注」についての賛否を問うような論争も見られました。しかし大切なのは賛否を論じるよりも、外注にいたるまでの経緯に注目した上でそのあり方についてしっかりと目を向けることなのではないでしょうか。
登校時の見守り活動を担う「地区委員」のなり手がおらず、くじ引きによる委員選出が続く状況を改善するため「旗振り当番シフト作成ツール」の制作を外注した、千葉県流山市立小山小学校のPTA会長・峰松拓毅さんに、その経緯と成果について話を聞きました。
子どもたちの登校を見守る「旗振り当番」に課題あり
「子どもたちの登校時の見守り活動を担う地区委員は各地区から選出されるのですが、毎年なり手がおらず、ほとんどの地区はくじ引きで当番を決めるような状態が続いていました。これをどうにか改善したいと思ったことが、PTA活動の外注を検討するきっかけのひとつとなりました」というのは、千葉県流山市立小山小学校で2020年度からPTA会長をつとめる峰松拓毅さん(家庭数1311/PTA加入率99.8%)。小山小学校のPTAでは、登校時に子どもたちが安心、安全に通学できるよう、地区により「集団登校制」「旗振り当番制」の2つの方法で保護者による見守り活動を行ってきましたが、集団登校による保護者の負担等を考慮して「旗振り当番制」に統一することに。
同校は児童数が1600人を超えるマンモス校で、旗振りポイントは20数カ所以上。60名を超える地区委員が自分の担当エリアの旗振りポイントをまとめて、担当家庭を割り振っていたそうです。
「2022年の1学期、現状を把握するために地区委員さんにアンケートを行ったり意見交換会を開催したりしたところ、『家庭数が多く、保護者の希望を考慮しながら担当日を振り分けることが困難。現段階では機械的に振り分けるしか方法がない』『振り分け作業に多大な労力がかかる』などの声が。また、旗振り当番の頻度が地区により異なることもわかり、課題が見えてきました」と、峰松さん。
そこで、校区内で旗振り当番のシフトの作り方を統一して、「両親ともにフルタイムで働いている」「下に乳幼児がいる」「介護中、もしくは家族が病気で療養中」など、保護者のさまざまな家庭環境を考慮し、各家庭ができるときに担当してもらえるような旗振り当番のシフトを組めるようにすること。また、今後恒久的に地区委員さんの負担軽減ができるよう、オンラインによる「旗振り当番シフト作成ツール」を外部に委託して開発することを思い立ったそうです。
小山小版「旗振り当番シフト作成ツール」により地区委員を廃止
本部役員にツール開発の外注について提案したところ、「最初は『そこまでするは必要あるのか』『旗振り当番の頻度を少なくすることで、ある程度解決するのでは?』などの意見もありました。しかし、前例踏襲的にこれまでのやり方を続けると、家庭の事情などで免除希望の方の声が反映されず強制感がぬぐえないため、それはPTA本来の姿ではないよね、と伝えたところ、地区委員さんからも『このようなツールがあると便利かもしれませんね』という声もあがり、『まずはやってみよう』となりました。校長先生もICTの導入には積極的で『どんどんやってください』と背中を押してくださいました」複数の候補の中から、書記業務や行事運営支援などを請け負う約60社とPTAをつなぐ、マッチングプラットフォームを提供するPTA支援サービス「PTA’S(ピータス)」にツール開発の相談をすることに。
「PTA’Sさんを通じて、学校へのプログラミング教育支援やICT支援サービスなども行う会社さんをご紹介いただきました。『保護者の希望を考慮したシフト作り』『地区委員の負担軽減』『使い勝手がよく多少デジタルが苦手でもあつかいやすいこと』など、ツール導入により解決したいことやその目的を伝え、当校PTAオリジナルのシステム開発をお願いしました」
2022年8月から制作を開始し、同年12月、小山小版「旗振り当番シフト作成ツール」の試作版が完成。2023年1月から、まずはお試し期間ということで運用がスタートしました。費用は、開発費とサポート費で約14万円(※仕様等により費用は異なる)。
これにより、これまでは地区ごとに地区委員が機械的に旗振り当番を割り振って行っていた見守り活動から、“校区内一律で、できる人ができるときに行う見守り活動”へとアップデート。 ツールの利便性の目途がついたことを受け、小山小PTAでは臨時総会を開いて会則の変更を行い、地区委員を正式に廃止。これにより全ての委員会が廃止され、PTA活動は、完全立候補制の本部役員とボランティアのみで担う形が実現できたそうです。
やらされ感が軽減され、当事者視点からの意見も出るように
「『旗振り当番シフト作成ツール』導入により、保護者の希望に応じて、旗振りポイント・曜日・頻度等を選択できるようになり“やらされ感”が軽減。さらに地区委員自体を廃止にしたため、地区委員選出に関する苦情や、シフトを機械的に割り振られることに対する苦情の声がなくなっただけでなく、各地区から『旗振りポイントを新設したい』など、当事者視点からの意見も出るようになりました」と、峰松さん。現在は“試運転中”のため、シフト希望のアンケート送付やツールによるシフト作成等の作業は峰松さんや本部の書記兼IT担当が対応していますが、来年度からは「地区活動ボランティア」にて、ツールを運用しながら無理のない範囲で見守り活動を行っていくそうです。
「家庭でできる作業なので、メンバーがわざわざ学校に集まる必要もなく、自分の空き時間を利用して作業できると思います」
「旗当番シフト作成ツール」は先生方にも関心を抱いてもらえているそうで、「個人面談のシフト作成に活用してみたい」というリクエストも。「将来的には、先生方の業務効率化のサポートにも取り組んでいきたいですね」といいます。
PTA活動の外注により、良い効果が生まれることもある
「子どもたちの健やかな成長」を目的として活動する任意団体であるのに、前例踏襲的な運営方法などにより、負担感や強制感を感じることも少なくないPTA。「PTA活動の外注については、会員である保護者から預かっているお金であるという認識を常に抱きつつ、『その取り組みは、子どもたちをとりまく環境をよくするため、日々の安全を守るために、本当に必要なものなのか』について、PTA本部や活動に関わる保護者、先生方と対話を重ねた上で判断することが大切なのではないでしょうか。
当校PTAでは、システム開発のプロに『旗当番シフト作成ツール』の制作を外注したことで、子どもたちの安全をこれまでどおり確保しつつ、関わる保護者の負担軽減につなげることができました。このツールの存在により、保護者の負担が少ない見守り活動が持続可能になったことにも、大きな意義があると思います」
自校のPTAが何のためにどのような運営を行うのかという、核となる最上位目標はPTA本部・保護者で共有しつつ、一部の活動を外注することにより、
・保護者の負担軽減につながる
・活動がシンプルになり、持続可能になる
・保護者や先生方のモラール(士気)が上がる
などのよい効果が生まれることもあるのではないでしょうか。
■プロフィール:峰松拓毅さん
2020年度より千葉県流山市立小山小学校でPTA会長をつとめる。2人の子どもの父親。