父はいつも母にモラハラをしていた
「子どものころから父親が怖かった。母にいわせれば『お父さんは厳しいけど、それはあなたたちを心配しているから』ということでした。でも母は嘘をついていた。だって母自身が夫にモラハラされていたんですから。私がそれに気づいたのは小学校に入る直前だったと思う」マキコさん(36歳)はそう言う。物心ついたころ、父が母に「ひどいこと」を言っているのを目撃した。たとえば「誰のおかげで、1日遊んでいるおまえが食えていけるんだ」「子どもたちが言うことを聞かないのは、おまえの育て方が悪いからだ」など。父は怒鳴りはしなかったが、突き放すような冷たい言い方だったのを彼女は記憶している。
「母も悔しかったはずですが、自分には収入がないから離婚などできない。我慢しながら私と弟を育てていたんだと思います」
長じるにつれ、父の発言は彼女を苛立たせた。中学生のとき、マキコさんの成績が下がると、父は淡々と言った。
「こんな成績だと、いい家に嫁に行けないって。私は大人になっても嫁になんか行かない。お父さんみたいに妻に文句ばかり言うような男と結婚しないと言ってやりました。それを聞いて父の眉毛がピクリと動いた。次の瞬間、『おまえの育て方が悪い』と母に冷たく言い、母はごめんなさいと頭を下げていました。そのころ友人の家に遊びに行ったら、お父さんが冗談ばかり言って家族を笑わせていたんです。家庭ってこういうものなんだと目から鱗が落ちるような思いでした。うちはおかしいんだと、よくわかった」
その後、2歳下の弟の言動がおかしくなった。高校に入ると悪い仲間と連れだって歩くようになり、ついには警察に補導されたのだ。そのときも父は母を叱りつけた。だがマキコさんは、「お父さんは弟に親らしく何かした? ちゃんと愛した? 何もしていないくせに偉そうに説教なんかしないでよ」と父に正面切って抗議した。そして殴られた。
>家を出ることを目的に決めた就職先で最悪の事態に