なぜ? FIREを“卒業”する人々
羨望の念を持ちつつも、それを本気で目指す人とそうはしない人に分かれるだろう。FIREまでの道筋がわからない、自信がないというケースもあるだろうが、FIREすることにどこか違和感を持つ人もいる。
実際、SNSの投稿などでは、「FIREはもう卒業、やっぱり仕事がしたい」という声も散見される。人は時間を持て余しながら生きていくことができない動物であり、好きなことだけをしながら自由に生きることに憧れは持つものの、実際は生活にハリをなくしたり、好きなことばかりしていても、それに飽きてしまったりするのだろう。
なぜ人は働き続けるのか。お金以外の働く意義を見失いがちな人は、「FIRE卒業」からその意義の問い直しを実践してみるのはいかがだろうか。
働き続ける理由(1)「管理されたい欲望」
FIREを“卒業”する人の中には、資金的にはFIRE状態でいられるけれど、やはり1人ではいたくない、組織に属して働きたいという考えに至る人もいるようだ。仕事で得られるのは「お金」だけではないというところが、この考え方の要点になりそうだ。まず、人材コンサルタントとして数々の人を観察してきた筆者は、人には「管理されたい欲望」があると考える。
数々のことをすべて1人で自己管理することはなかなかにしんどいものだ。あなたの中にも、他人から管理されたい欲望はないだろうか。意識してその願望に気づいている人もいれば、無意識のうちにそのような環境にばかり身を置いてきたという人もいるだろう。
また、管理する側・管理される側双方に、持ちつ持たれつの関係がある。誰しも経験したことがない仕事と向き合った時、特に自分の能力がまだ十分ではない時などは、上司や先輩の存在に助けられることがある。経験豊富な仕事のできる上司や先輩でも、やる気のある部下や若い世代によって助けられ、業務への負担が軽減されることもある。
人は人を育てることや人に育てられることに高い関心を持つものであり、働くモチベーションのひとつとしている場合も多いのだ。
働き続ける理由(2)「他者からの承認」
「お金」「管理の関係」の次に、仕事から得られるものとして考えられるのは、他者からの「承認」である。なぜ働くのかという問いに、生活のためにお金を稼ぐ必要があるからと、答える人がいる。これは真実をついており、仕事はボランティアではない。給料の対価として労働力を提供しているわけだ。
一方で、このように答える人の多くも、お金のために働いているから、どんな仕事でもいいと割り切っているわけではない。むしろこのタイプの人の方が、仕事にやりがいを強く求めたり、承認要求が強かったりする傾向も見られる。
人から承認してもらいたいという願望は自然であり、特にいい仕事をしているならば、それは承認されるべきものでもある。職場の人間関係に悩みがある人の場合、同僚や上司からの承認が足りないことが原因となっていることも多い。逆に、日頃から仕事への感謝を互いに伝える企業風土のある会社であれば、社員の承認要求はそれほど強まらない。
仕事を通じた「承認」が、社会の一員としての自己の存在承認にもつながり、生きていることへの漠然とした不安感解消の助けになっていることもあるのだ。
仕事は本来、人のため、社会のためになる営みである
ここまで見てきたように、人間が働くことで得られる対価は、「人と人との接続性」「社会との接続性」というところに帰結すると考えられる。1人で黙々と仕事をすることを好む人もいるが、同僚とのコミュニケーションを楽しみ、さまざまな人間ドラマを通して生きていることを実感する、それを働き続ける理由に挙げる人も多いのではないだろうか。
本来仕事は人のためになり、社会のためになる営みである。普段働いていて、得られるお金にばかり目がいきがちになったり、FIREに憧れたりすることもあるだろう。お金以外にも、働くことを通じて得ていることがあることにも時々は目を向け、働く意義を見失わないようにできると、納得のいく良い仕事ができるようになってくるのではないだろうか。